紫電Pの雑記帳

ニコニコのブロマガ閉鎖に伴い移転しました。主にアイマス関連の記事を書きます。2021年9月以前の記事はブロマガから移行したものです。

史上最強の765AS単独ライブが見せた光は、全アイマスの未来を照らす灯―― SUNRICH COLORFUL ライブレポ

 

 

 

 私は忘れることはないと思う。過去最高、史上最強だった765プロオールスターズのステージを。

 

 

 

 そんなわけで恒例のライブレポですが、今年の7~8月上旬は諸事情でここ5年で最も忙しく、アーカイブ終了にさえ間に合わない完全に旬を外したレポートの投稿になってしまいました。多分に自分の振り返り用ですが、まあご笑納いただければ。

 

 

 

◇序・単独ライブに至るまで

 

 15th合わせのライブの中止を経て、四年半ぶりの765AS単独ライブとなった今回の「SUNRICH COLORFUL」。7th以来のメンバー全員集合となり、また音無小鳥役・滝田樹里さんのゲスト参戦もほぼ確実視されていた。
 長くフルライブや本格的なステージからは離れていた演者もおり、沼倉愛美さんや浅倉杏美さんのように、産後間もない方もいた。
 
 ただ、ブランクこそあれど彼女たちのパフォーマンスを心配する人は少なかっただろう。5月に開催されたバンナムフェス2ndでは、トリ前を任された8人のASメンバーが他アイマスや同系統コンテンツに遜色ない盛り上がりを作り出し、我らがセンターオブセンター・中村繪里子「これが今の私たち! 765プロオールスターズ!」とぶち上げた。当時のレポ

 多くの人が思ったであろうことは二つ。きっと高いパフォーマンスを発揮してくれるとして、何を見せてくれるのか。そして、現地でそれを見届けることができるのか。

 

 単独以外でもミリオンのリリイベやシーズンエアーでも力を発揮した765ASの久々のライブを見ようと、しばらく離れていた人、そして何より初星当時はPでさえなかった人たちが参加するのは目に見えていた。箱を抑えたのが実質キャパ5000縛りがあった昨春~夏であった以上は仕方ないのだが、幕張メッセイベントホールはあまりにも小さすぎた。

 本来2020年に予定されていたライブでは、全員が揃うわけでもなく(少なくとも原由実さんは参加不可能だったとされる)、MA4も最初の3枚が出たばかりの時期ではあったが、それでもぴあアリーナMMが用意されていた。今回はその箱から数千席少なく、ライブチケット争奪戦は激烈だった。せめてぴあか武蔵野であったなら、両日ともご用意されなかった人はもう少し減ったはずなのだが……。これはもう繰り言にしかならない。今後も含めたアンケートで、要望として伝えていくしかないだろう。

 かく言う私もDay1はどうしてもチケットが取れず、Day2のみ現地参戦となった。

 

 


◇DAY1「私たちのこと知らなくても これから覚えてよね」


 リセールまで含めたあらゆる手を尽くしたもののご用意されず、地元のライブビューイングでの参加だったDay1。
 私が参加した会場は、前列以外は概ね埋まっていた。比較的ゆったりとした座席で見やすく、着席視聴なのもありゆったり観ることができた。アイマスのライビュでは定番の映画館なのだが、個人的には過去に参加した全国各地のライビュ会場5カ所よりも良かったと思う。


 隣が765ASのライブは初めてという女性Pさんだったり、近くでは育児があってライブ参戦自体が初星以来と話している方もいた。

 初星宴舞から4年半。2018年始と言えばまだシャニマスが発表される前だし、ミリオンでさえようやく夜想令嬢が発表され、個性豊かなMTGのユニットシリーズで一気に跳ねる前である。
 4年の間に、アイマスを巡る情勢も大きく変わった。ユーザーも相当数の新規が流入したし、765ASに関しても初星後に知った新規層の大半はミリシタ経由だろう。そのミリシタさえ、20年のライブ一挙放送やパチ・スロ経由という人もずいぶん多いし、何なら今後は「サロメ嬢から」といったV経由の新規も若干数を占めるのかもしれない。


 他方、シンデレラは20年初から本格的な5ブランド路線が始まるあたりまでは事実上のフラッグシップを担う絶頂期だったし、新規の割合では他のアイマスと意図的に切り離したシャニマスから入った方も多い。女性Pなら、初星直前までアニメがやっていたSideM経由という方も多いはずだ。
 両日の会場や、私が投稿した動画。あるいはネット上の反応から、今回のライブを現地やLV、配信で参加する層は、初星の時とは大きく様変わりしているように感じた。

 バンナムフェスやアニサマ、リスアニ、あるいはミリオン関係のイベントでASの活躍は見ていても、単独イベントをリアルタイムでは見たことがない。そうした多くの新規の方がライブを見るのは大きなチャンスなのだが、それがスタッフや演者側からも見えている状況で何を見せてくれるのか。

 
 「おそらく、バンナムフェスのようにこれぞという曲で最大火力をぶつけつつ、MA4やMTWといった新しい曲を見せていくのではないか」。

 

 

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 私はこの日のためにと19年から始めていたメドレー動画を作ってそう考察したが、初星に準じるなら両日でセトリを組み替えられるのはソロと一部のユニット曲のみだ。全体曲枠は多くて5枠と多くはない。全員が揃っただけでも重畳、久々のライブで初星以上の無理はしないのではないか。

 そんなことを考えながら、前説とovertureを迎える。場所柄、協賛として高槻市観光協会が読み上げられた際にはひときわ大きな拍手が起きてニッコリした。



 永く永く待った、765のライブだ。初手はIDOL☆HEARTか歌マスか。興奮と期待の中で流れてきたのは、おそらく全参加Pが予想さえしていなかった曲のイントロだった。

 

■We Have A Dream

 イントロで幕張が、そして私のいたLV会場がどよめいた。「意図せず出てしまう歓声」ではなく「意図せず出てしまうどよめき」だったと思う。一曲目が始まる前に感極まりかけていた私も、感情があふれるどころか「マジかよ……」とつぶやいていたと思う。
 色々あってスロマスの曲として採用されたものの、これまでライブイベントでの披露はほとんどなく(MRでは頻繁にあったが)、フルバージョンの披露は初。興奮しながらも脳内では「なぜ?」が連呼されたが、歌詞を聴いて腑に落ちた。


「私たちのこと 知らなくても これから覚えてよね」
「『はじめまして』とか 言わないけど お願いよろしく!」


 ああ、そういうことか。
 つまりは全部わかった上で、17周年を迎えるコンテンツが新規を獲りに来ているのだ。名前は知っているし見たこともあるけど詳しく知らない、という層を。あるいは、もう少し知っていて、何となく程度に知っている層を。それは、この四年で大きく増えた層でもあるから。


 そして、このライブでそれだけのものを見せてやる。そんな宣言にも見えた。

 


 後から思えば。

 演者の強い要望を束ねて作られた強い文脈で彩られた今回のライブの、象徴的なシーンだったのだと思う。


 夏曲枠であるサニーを経て、ソロの初手は仁後真耶子さんの「スマイル体操」。これはかなり高い確率で来ると予想していたので、マスクの下ではどや顔だった。
 ソロ曲や「なんどでも笑おう」の歌唱など、コンセプトとして「笑顔」が設定されたDAY1だが、様々な理由で笑顔と縁が遠くなってしまったこの時代だからこそ、笑ってほしいという意図が随所に感じられた。同時に、悲願だった全員集合のライブであっても感傷的になるものではない――という意図もあったのかもしれないが。

 

 そして、仁後さんはフルライブでは初となるヘッドセットを導入した。かつて10thで沼倉愛美さんが初使用し、その後は各ブランドでも使われるようになった装備ではあるものの、765ASでは珍しいものだった。それを今回のライブでは全面的に解禁し、その後も次々と投入して私たちを驚かせることになる。
 ヘッドセットを使用するということは、振りを強化するということで。当然、それはパフォーマンスの上限突破と引き換えに演者負担の増加につながる。それでも、彼女たちは躊躇せずそれに挑んだのだ。

 

 続いてアプデ。ソロはMA3、4の二曲で鉄板だと思っていた長谷川明子さんだが、今回も昨年のミリシタ感謝祭、バンナムフェスなどと同様、気合に満ちていた。
 以前の番組で語っていた「アイドルらしい可愛らしい振り付けとキラキラ感」をどう表現してくるかと注目していたが、見事なまでの可愛い全振り。最後のパートの「キラキラ」もちゃんと歌唱していたあたり、相当な思い入れがあったことも伺える。

 765ASでも最もソロ曲に振れ幅のあるのが美希だが、長谷川さんは翌日も含めて、今回のエースポジションを全うしていたと思う。というか、ライブパフォーマンスにおいては7thの頃よりも今こそが全盛期と言っても過言ではないのではなかろうか……。

 

 アプデを終えてそんなことを考えていたら、想定外の――けれどよく知るイントロが流れて思わず声が漏れる。「自転車」だ。正直予想していなかったし、MA4じゃない方の本命はセピアカラフル、あるいは絶険だと思っていた。

 この辺りで私は、「ランティス曲をやらない可能性」に思い当たる。

 

 MR ST@GEやミリオンでのカバーでは見たことがあるが、リアルタイムで自転車を見るのは初めてだった。初星からライブ現地に通うようになった私としては、正直見られる可能性はあまり高くないとも思っていた。

 だからこそ真Pとして驚いたし嬉しかったし、同時に振りがかなり多いことにも驚く。自転車はこれまでこんなに動いていただろうか? この日の平田さんはメンバー唯一のパンツスタイル。低い姿勢も取り放題だが、元々はそこまでダンサブルに動くわけではなく、上半身から腕、指先の所作で魅せるタイプの振りが多い演者だったはずだ。

 その答えを知るのはもう少し後だったが、本当に僥倖と言っていい時間を過ごせた。

 

 一方で、他己紹介では悪ノリも含めていつもの765ASだった。令和に修羅場トリオが見られるとは……。浅倉さんはプロミに続いて役得である。

 

 続く「Slapp Happy!!!」も8th以来の披露で、全く予想していなかっただけにホイッスルが吹かれた瞬間には驚いた。この枠は仁後さん熱望の「Good-Byes」はありうるかと思っていたが、まさかこの曲とは。

 リアタイ組の古参すら忘れている人も良そうなレア曲だが、そんなことは関係ないとばかりのパワーでぐいぐい押してくるパフォーマンスには、改めて冒頭の「私たちのこと知らなくても これから覚えてよね」の歌詞を想起させられた。

 

 だが、本当の予想外はここからだった。

 

■恋するミカタ

 

 よく知っているイントロが流れ、律子は灯とQ&A、もしくはlivEと踏んでいた私はうろたえた。そして、あの伝説のMR ST@GE秋月律子回・千秋楽の記憶がフラッシュバックし、思わず声が漏れた。

 

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 長年にわたり、現実への浸食、あるいはボーダレスを目指してきたのがアイドルマスターの歴史だ。その中で一つの到達点であり、765ASと秋月律子若林直美の長年の結晶と言えるイベントが、2018年9月22日のMR ST@GE律子回の千秋楽だった。



 詳細は当時のレポに譲るが、このイベントで締めの一曲として披露されたのが恋するミカタだった。竜宮小町のCD・SMOKY THRILLのカップリング曲で、あまり知名度は高くない。しかし、あのイベントに参加した人にとっては、律子の看板曲である魔法をかけて、いっぱいいっぱいにも比肩する存在になった曲だろう。

 あの日もダンサーさんは旗を振るうパフォーマンスで律子と息を合わせていたが、この日は若林さんも初となるヘッドセットを使い、「旗」を持っていた。感極まっていた私は気付けなかったが、従弟の秋月涼がF-LAGSとして歌う「夢色VOYAGER」の振り(これも演者が旗を使う)まで取り入れていたらしい。

 アイマスについて、かつて自ら「765ASに引きこもっていた」と述懐した若林さんの世界を広げたのが、SideM――秋月涼とF-LAGS、そして水嶋咲とCafeParadeだったのは周知の通りだ。4年半ぶりのソロ曲披露。彼女に限った話ではないが、力を蓄える中でSideMやミリオンなど各アイマスの強みに刺激を受け、自らの中で解釈し、新たなパフォーマンスの構築に取り入れ、いつか必ずと待ち焦がれた舞台でアウトプットする。

 

 新生・765プロオールスターズを象徴するシーンがこの「恋するミカタ」に凝縮されていたように私には見えた。

 

 そして、新しいだけではない。間奏で若林神が叫んだ「私のミカタは、みんなー!!!!」という言葉。これはMR律子回千秋楽で律子が同じように歌ったものだ。

 そこに至るまでのトークも、アイマス2アニマスなどで律子のたどった紆余曲折の道のりを示唆しながら未来へ進む決意を語るもので感動的だったのだが(レポ参照)、その台詞はそれを踏まえてのものだった。若林神が長年かけて取り組んでいた「ボーダレス」の結実の一つが、あの台詞だったのだ。

 だからこそ、その台詞をもう一度この大舞台で持ってきてくれたことに気付いた瞬間、視界が再び潤んだ。今回は平田さん、若林さん、下田さんが象徴的だったが、MRの遺産は演者のライブにも確かに生きていたのだ。この時点では、アイマスチームどころかバンナムとしてあんなMRの計画が動いているとは予想すらしていなかったが……。

 

 そこから続くのが、浅倉さんの「芽吹の季」であったのもよかった。もともと大きく振りをつけるタイプの曲でないこともあり、ステージを巡りながら最小限の演出で、彼女の芯の強さを感じさせる歌声を響かせたのが強く記憶に残った。かと思えば、この日は真美の側に髪を束ねていた下田麻美さんが外連味も効かせつつ「セクシータイフーン」で盛り上げる。そこから前半戦の総仕上げとして投入されたのが「マジで…!?」だった。

 

 

 

 元々は太鼓の達人の新曲として登場したこの曲は、コール前提の盛り上げ曲だ。私は全体曲の大幅入れ替えは想定していなかったので、バンナムフェスはともかく今回は披露されないと思っていた。……が、そんな浅い読みなど765ASには通用しない。コールができなかろうが、手加減なしのフルパワーで両日ともに披露された。というかフルパワーすぎて、その後がMCというのを踏まえても疲労困憊になっていたのは恒例ながら笑ってしまった。

 そう遠くない未来、コールが解禁された後にまた披露してほしいものである。フェスや合同でも映える曲だろうし。

 

 

 

 

 MC明けの曲は、これまた予想外の――というか、765AS単独としては初披露の「99 Nights」だった。相変わらず平田さんかっけーな……とか考えていたが、今回は結果的にミリオン発の曲は一切やらなかったものの、この曲をはじめカバー曲として実装されている曲、メインコミュで実装されている曲、過去の主要ライブ等でカバーされた曲も二桁に上っており、LEADER!!やMTWがなくてもミリシタメインのPに疎外感を抱かせることはなかっただろう。

 さて、カッコいい曲で会場のボルテージを高めたところで投入されるのは何か。固唾を呑んで見守る観客の耳に届いたのは、あのイントロだった。

 

■VELVET QUIET

 

 アイマスが15周年を迎える2020年。立場上抑制的な発言が求められるため真意が読みにくい中村・今井コンビを例外とすれば、2018~19年の頃に最も強い思いを口にしていたのは間違いなくたかはし智秋さんだろう。

 765ASの単独の活動が表向きにはお休み状態に入っていた2018年末のLLC。そして2020年初発売の初星宴舞のオーコメ。彼女は15周年、そして単独ライブへの意気込みをたびたび語り、オーコメでは2019年の意気込みとして、釘宮さんと長谷川さんと以下のような会話をしていた。(一部抜粋)

 

たかはし「765の新しい新境地を考える。他にない、すげーな765ASみたいな、斬新な何かを2020年に実現したいかな。19年は、その策を練る」

釘宮「じゃあ、策を練るということは私たちが今まで慣れ親しんだやり方、レールを壊してみようってことじゃない? それってある意味不安だったり怖いことじゃない。そこで新たに丸裸になって自分を晒すつもりで何かを始める、そういうのも、嫌がらずに来たらやるね」

長谷川「おおー、おおー、すごーい!」

たかはし「いいねえ、理恵。腹が決まってきたねアンタね」

たかはし「元号も変わるしさ、ここは新境地に飛び込もうって」

釘宮「生まれてから三つ目の元号だもんねー」

たかはし「だから皆さんにもついてきてほしいよね。皆さんも色々あると思うの。アイマスを応援してくれてる、でも十何年ずっとってわけじゃなくて一時期何か、他に興味あったりして。でも765懐かしいなって、この初星宴舞もそういう方いたらしいのね。単独ライブかじゃあ行くかって」

たかはし「環境とかも変わってアイマスから離れてたんだけど、行ってみようか、新作買ってみようか、懐かしいなーみたいな。そこからミリオンっているんだとかも、離れてるとわからないじゃない? それで何かこう熱が戻ってきたりとか。元号も変わって、また全然違う私たちを見てほしいというのはあるね」

 

 

 それだけに、コロナ禍でライブが絶望的になった――あるいは、既に中止が伝えられていたかもしれない20年5月頃の、LLCでの彼女は見るに忍びなかった。

 

 それでもMA4が発売された際には、特番で「(足腰、アキレス腱など)全部悪いけど、バキバキに踊る」と宣言していたのが彼女だった。そしてこの日、披露されたダンスは過去のライブを含めても最も踊れていただろう。それでいて、ボーカルも大きく損なっていない。

 それは初星で一つの完成形にあった沼倉さんのパフォーマンスを想起させた。それにどれほどの試練と覚悟があったか。ライブ後に明かされた経緯は、原さんが語っていた「一年間お菓子を断っていた」というエピソードも含めて壮絶の一語に尽きたが、それに見合うパフォーマンスを見せてくれたと思う。初星の「隣に…」、そしてSCの「VELVET QUIET」。この二曲はアイマスライブの一つの到達点として長く語り継がれるのではなかろうか。

 今回はなかなか合わせでのレッスンができなかったとのことだが、レッスン動画は各演者間で共有できていたという。200を超えるアイマス演者でも今なおトップクラスをひた走り続けているVoを損なわずに、Daも最高峰を目指す。その激闘の様子を見て、他の演者も大いに励まされ、短期詰込み型となったレッスンも完遂したという。

 

 そういう意味でも。この日のMVPは、たかはし智秋と言い切っていいだろう。

 

 

 息一つ乱さぬ圧倒的なパフォーマンスに会場がざわめく中、「夜の底」から「朝焼け」へとつながるイントロが流れ、会場がざわめく。センタースクリーンの扉の向こうから現れたのは、シークレットゲスト・滝田樹里さん。10th以来7年ぶりのステージに、新曲「翼」を引っさげての登場だった。

 

 滝田さんは20年のライブに出演予定だったことをSSGのおまけパートで明かしており、今回も登場は確実視されていた。ただ、やはり出てきてくれたことは嬉しく、しかも終盤ではなく中盤の登場とは驚かされた。新曲・翼もライブで聴ける機会は貴重なのでいやあ良かった良かったと思っていたら、続いて「空」のイントロが流れて会場も現地もこの日一番のざわめきが起きる。まさかのソロ曲連発。そして最後にはAS+全員集合の演出。すかさず「私達、765プロオールスターズ+になりましたー!!」というMCをぶっこむ我らが大センター。これが中村繪里子である。

 

 最終ブロックの初手は、まさかの「kisS」だった。個人的には同メンバーの「インセインゲーム」初披露と読んでいたが、大外れもいいところである。とはいえこの曲も10年以上3人で歌えていないので、ここでオリメン披露するのはいいチョイスだろう。最後の決めポーズの沼倉さんは相変わらずカッコよかった。

 曲が終わった後、拍手をしながら「実に良かった。寺島拓篤さんの言ってた961フェスも実現してほしいなあ……」とか考えていたら、さらに一片も脳裏になかった、されどよく知っているイントロが流れて声が出る前に硬直する。

 

 「inferno」。

 雪歩の演者がまだ前任者だった頃の曲だ。過去数回披露されてはいるものの、千早と雪歩の二人として歌われたことはゼロ。まさかまさかのセトリである。

 2020年にできるはずだった10周年のお祝いが果たされなかった浅倉さんだが、動画でも言及したようにこのライブでは敢えて前任者時代のイメージの強い曲――ピンポイントに言うと「Kosmos, Cosmos」を歌うと思っていた。だが、まさかその時代の曲でもinfernoを投入してくるとは。セトリ予想をMTWの披露を前提にしていたとはいえ、誰がこの流れを読めただろうか。

 台詞パートも完全詠唱を果たし、圧巻の歌唱を見せた二人。その興奮冷めやらぬままに、続けざまに心を揺さぶる「ソナー」が披露される。特番では「もっと爆エモい感じに歌いたかった」と発言して今井さんに「ライブでやりましょう」と言われていた釘宮さんだが、宣言通り感情を前面に出した歌唱が印象的だった。特にCメロはその最たるものではないだろうか。

 

 続く貴音ソロ。月をテーマにした曲ということまでは予想していたが、「ふたつの月」ではなくぷちます曲の「月ノ桜」。フロンティアワークス曲の披露は予想されていたが、まさか真や律子ではなく貴音枠だったとは。いやほんと、

 

 

 

■終わりと新しい始まり

 

 ソロパート最終パート。「HUG」、そして、歌唱後に"お待たせ"という口パクのメッセージがあった「笑って」。それぞれスクリーン演出を使わず、スポットライトだけで勝負する姿はまるで石原Dの時代のセトリを思い出す流れだった。そして、ソロパートが「スマイル体操」から始まったday1のテーマの一つが「笑顔」だったのだと観衆も気付かされる。千早ソロはもう言うまでもないし、その次にはあの5ブランド合同曲が控えているのだから。

 極めて厳しい時代ではあるけれど、笑顔でいよう。そんなメッセージを受け取った気がした。

 

 そして、満を持して「Coming Smile」のイントロが流れる。こちらも、演出は最小限に抑えて演者のボーカル一本勝負だ。

 

 

 私はこの曲は、どの世界線の千早も到達しうる曲、と解釈している。

 約束を歌ったアニマスの千早も、プロデューサーとの二人三脚で細氷をものにし、玲音も打ち破って個人としては歴代最強とも言える存在になるOFA千早も。それ以降の据え置き、さらにはミリオンやスタマスの世界線の千早も。

 きっと、そんな曲だ。

 

 このライブの今井さんは、本人もSSGで振り返っていた通り体力的にはかなり余裕をもってパフォーマンスをしていたように見える。それでもこの曲は、感情を強く込め、CDの音源よりもあえて気持ちの波を作って歌ったように見えた。そして、私はその歌い方に強く心を揺さぶられた。巧く歌うだけではなく、蓄積した思いを一気に開放するような、その歌い方に。

 

 歌唱後に送られる万雷の拍手。そして、集まった765AS全員による「New Me, Continued」。

 MA4に共通して収録されているこの曲は、当時はともすれば悲壮感も覚えた人もいたと記憶しているが、徹頭徹尾前向きなMCとともにこうした形で披露されれば、まるで違う、とても力強い前向きな意図を感じられた。

 何より、765ASの全体曲のユニゾンの美しさが非常に映える。ユニゾンが映えるから、歌詞もすっと心に届く。その好循環があるから、ライブでもアンコール前のこの一がベストなのだろう。ソロ歌唱も配置や歌詞に意味を感じるものが多く、ソロで歌う時は他のメンバーが担当者を見る場面があるのもいい。積み重ねてきたものがどこよりも長い765ASだからこそ、それがまた心に響く。

 

 

 

 

 アンコール前のお知らせでは、真とマスターピースのコラボバッグが発表され、さっそく注文した。今使っているリュックはガタが来ていたし、今までの真関連のカバンは男性が使うにはちょっと厳しいデザインで手を出していなかったから丁度いい。ミリオン9th、そして先日発表されたMOIW2023(仮)で活躍してくれるだろう。

 

 

 

 アンコール明けの一曲は、誰もが予想していたであろう「なんどでも笑おう」だった。イントロはバンナムフェスと同じタイプだ。

 

 私はミリオン7thRでこの曲が歌われると予想し(賛否両論、というより否が多かったが)、ミリオンの参加メンバー全員の歌唱を見届けた。その後、ミリラジでロコ役の中村温姫さんがえらい人の話として言及した「各ブランドのリレー」の通り、他の3ブランドもこの曲をつないできた。

 本来とは真逆の順番になったが、理想形であるAS+での披露だ。イントロでつい曲名と真逆の反応をしてしまったが、私も歌詞通りの思いで持てる限りのリウムを振った。最後の中村さんによる「みんな一緒に 私達と一緒に」という言葉は、10thDay2の「アイ MUST GO!」における「みんなも一緒に アイドルマスターとずっと一緒に」本歌取りだろうか。5ブランドのリレーが完結した時に、かつて3ブランド合同で歌った曲の言葉をもう一度持ってくるのは、彼女らしいと感じた。

 

 

 

 

 

 最後のMCの内容についてはDay2の部に譲るが、各演者がひたすら前だけを向いてこの先を信じている姿は胸を打つものがあった。

 そこから何を歌うのか。私はライブの最後の曲は歌マスだと思っていた。この時点では、ほぼ総とっかえのセトリになるとは予想していなかったからだ。

 それだけに「READY!!」の歌唱には驚かされたし、同時に納得した。

 

 アイドルマスターにとって、765ASにとって。15周年がようやく一つの区切りを迎え、ここからまた始まるのだと。

 

 これ終わりではなく、新しい始まりの一曲。だから、石原時代を思わせるセトリからのなんどでも笑おうで一旦締め、まるで今ここからライブが、新しい未来が始まるように。

 銀テープが舞う中、ニッと笑って決めポーズを取る我らが大センター。

 

 ここからまた、新しい歴史が始まる。何百回も聴いたこの曲を最後に持ってきたのは、そうした熱意を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇DAY2  I'm yours and...

 

 

 7月10日。私は幕張にいた。

 

 

 夢にまで見た、765AS単独ライブの現地。今回のライブには見合わない狭さではあるが、初星で沼に落ち直してから、プロミ、リスアニと彼女達の勇姿を何度も見届けた場所。バンナムフェス2ndの後に立ち寄り、何としてもここに来たいと誓った場所。ようやく帰ってきたのだ。

 昨日ライビュに参加したというのに、どこか現実感のないふわふわした気分だった。

 

 

 それでも、顔見知りの皆様方と挨拶していると、次第に現実感が高まってくる。暑かったので開場早々に館内に入り、持ってきた武器を取り出した。

 

 

 

 ミリオン8thで、オペラセリアと君彩のためにぶっつけ投入したビクセンの防振双眼鏡(お値段7万ちょっと)。アリーナ後方の2階Aスタンド端ということもあり、今回も存分に活躍してくれた。

 ……もっとも、頼りすぎたせいで終盤とんでもないミスを犯すのだが。

 

 

 準備をしていると開演前のBGM代わりの曲でMTW曲が流れ、今回はミリオン曲をやらないと悟る。この時はまだセトリを知らないので、「やっぱARCANA聴けないのか……」と少なからず残念がっていたのだが。

 Day2でソロを変更するのは765ASのライブの定番で、今回はDay1でMA4を半分残したことからそれは容易に予想された。

 

 では、他の曲は?

 MTWはやらないが、すでに全員が歌ったなんどでも笑おうは今日は歌わないだろう(他ブランドでも両日歌唱はメンバーを完全二分していたミリオン7thRのみ)。初手の曲も変わるはずだ。

 

 ……しかしまあ、今の765ASなら何が来たっていい。というか昨日予想を外しまくったので、もうデータは捨てている。そんな思いでovertureを迎えた。

 それにしても今回のovertureはとても良い。個人的にはミリオン6thが至高だったが、やはり765ASは特別である。何なら「天海春香 中村繪里子」だけでグッとくる。

 

 

 

■IDOL☆HEART

 そうして始まったライブ一曲目は、スタマス発の最新曲「IDOL☆HEART」だった。私が予想動画で、ライブ最初の曲として予想していたものだ。締めはマスピと歌マス。そして昨日で15thは一区切り。ここから新しい歴史を刻むにあたって、一番ふさわしいのはこの曲だ。

 予想通り、それでも。聴きたかった曲が聴けたこと、プロミ18以来のフルメンバーのASを生で見て、歌声を聴けること。765で顕著な傾向である、全体曲でのペンライトの多彩な光の海。それらを見て、つい目頭が熱くなってしまった。

 「何度でも諦めない」と謳い、おそらくyuraさんが意識的に765ASを象徴する言葉を散りばめられたこの曲は。思えば、前夜に中村繪里子さんが最後のMCで予告していたのだろう。

 

 続く2曲目は、前日のサニーから「ラムネ色 青春」にスイッチ。ここで私は「ヤバい、マジで…!?とNMC以外全部変わる」と理解していた。

 これは、とんでもないライブになるぞ。

 

 そして、昨日は外しまくった予想は今日は少しは当たるかもしれない――なんて思っていたら、ソロパートの先陣は初披露の「zone of fortune」。まさかのぷちます曲2曲目だった。やはり当てにならない……。

 

 とはいえ、次のポンデは(まあド本命クラスだったが)的中。沼倉さんたっての希望でパーフェクトサンの4人での歌唱となり、直近ではミリシタでも触れられたこの曲に込められた想いを体現するステージとなった。最終盤までこれがソロ枠とは思わなかったので、一時は「あれ? ぬーさんのソロは?」と困惑したのだが。

 そしてこの曲どころかMCまで丁寧にウェーブをしたことで、最終盤にDestinyをやるのでは、という予想が脳裏をよぎる。しかし最後の2曲はマスピと歌マスのはず。どうするのだろう――と、来年集まりたい(若林さん)とか、20年後までに分身したい(下田さん)などと飛ばしていくトークを聴きながら楽しみにしていたら、次の曲は「LEMONADE」。初星では浅倉さん欠席(先約があった)のためオリメン披露ができず心残りになっていたが、これで回収した形だ。

 

 今回の浅倉さんは、産後すぐで一度は参加を断ったという状態だったという。

 第一子御出産直後のステージは、平田さんや長谷川さんとそこまで合わせる必要もない、緩めのダンスで2曲やればよかったXsのリリイベだった。その時とは話が違うから当然だが、スタンドマイク活用や芽吹の季のような演出を活用して、負担を軽減しながらよく走り抜けたと思う。これは初星ほどの激しいダンスは避けていたっぽい沼倉さんも同様だが、何せ今回のレッスン量は過去最大規模である。浅倉さんがくじけそうになったというのも無理はない。けれど、可能な範囲のベストパフォーマンスを見せてくれた。

 

 釘宮さんの髪型から予想されていた「リゾラ」、魔法少女をイメージした仁後さんの「ピピカ・リリカ」はとても可愛らしかったし、そこから一気に熱量を上げる「マジで…!?」である。両日ともに演者のスタミナの使いどころだったこの曲だが、平田さんの体勢はSideMかというくらいにやたら低いし動くし(後ほど説明はあったが)、煽りも大きいしでとても楽しかった。また、この日の後半は明確にリミッターを外していた今井さんだが、最初にギアを全開にしたのは多分このタイミングだろう。

 これだけ盛り上がる曲だけに、そう遠くない未来にコールが可能になった後は紅白応援Vと同様に、ライブやその前の声出しの定番になってほしい曲である。コールしたらしたで、なまっている観客側も消耗が激しそうだが……。

 

 余韻冷めやらぬ中、前日より早いタイミングで扉が開いて滝田さんが登場。Day1最後のMCで示唆されていたこともあり、驚きの歓声ではなく大きな拍手で迎えられた。この「想い出は永遠に」は、翼とは別ベクトルで朝焼けは黄金色を象徴する曲なのだが、漫画を読んでいるか否かで印象がまったく違うと思うので、ぜひ全5巻を読んでみてほしい。いや読んで。この楽曲はそのものがネタバレだから、あまり言及できないので……。

 

 

 

 

■Ever Sunny

 

 MC明けのソロ曲は、平田宏美さんの「Ever Sunny」。積極的にファルセットを使う歌唱だが、この日は原曲より力強い歌い方を前面に出していたのが印象的だった。それは、自転車同様に力強いダンスとも噛み合うものだったと思う。めちゃくちゃカッコ良かったし、真はライブではこういう歌い方もするしああいうファンサもするのだろう、という実在感があった。個人的には、Bメロの冒頭でカーテンを映すスクリーンを背に歌うシーンがかっこよすぎて痺れた。

 

 前日のMCで平田さんは、MR ST@GEを参考にダンスをより突き詰めたことに関して「年齢を理由にしたくない」ときっぱり言い切った。なかなか言えることではないし、終演後のTLなどの反応からしても、彼女と同世代はもちろん、多数を占めるであろう私を含めた平田さんより10歳前後年下のPたちにもこの言葉が刺さっていた印象がある。

 

 

 少し話は逸れる。私が大学まで一線でプレーし続けた野球の話だ。

 かつてプロ野球で「松坂世代」がベテランの域に入った時、その頑張りに励まされる同世代の記事が印象的だった。

 松坂世代は私より結構上の世代だが、共感はできる。私と同世代や、アマ時代に対戦経験のあったプロ野球選手もほとんどが引退してしまったが、残っている同期の頑張りには刺激を受けるし、やはり憧れるものがある。「あの人が今も頑張っているんだから、自分も少しは頑張ろう」と感じさせられる。

 アイマスの演者についても、私は学生の頃から15年余に渡って追い続け、ASに限らずミリオンにも同世代がいる。年齢を理由にせず、自分より一回り、あるいは二回り近く若い演者とともにチャレンジし続ける同世代を見て、松坂世代を同世代が応援するのと同じような要素はあるのだと感じることが増えた。

 まして、ずっと応援してきた菊地真の演者さんが言うのである。年齢を理由にしたくない、と。

 さすがにアイマスに出逢った学生当時のような体力や回復力は既に失ってはいるけれど、彼女たちが20thを目指し、その先すら見据えているというのなら。以前はキリのいいタイミングのライブでの「区切り」を考えていた私も、いけるところまでついていけるようにしたいと思いを新たにした。

 

 そして、彼女たちの姿勢は後輩たちへの強いメッセージにもなっただろう。何せ、アイマス声優の後輩たちのカリスマという(LLCでのキング談)平田さんの発言でもある。

 一切妥協せず初星を大きく上回るライブを成し遂げ、特にその中でも年長に位置するメンバーが明確に新境地を拓いて牽引した。前述のメンバー以外にも今井麻美さんは特にこの日、過去一で余裕のある圧倒的な歌唱を見せたし、この後でも触れるが長谷川明子さんは今こそ全盛期と思わせるパフォーマンスを発揮した。

 17年を迎える765ASがこれだけのことをやったのだから、後輩たち――特にそう遠くない未来のシンデレラ・ミリオンの年長組メンバーは年齢を理由に何かを止める必要もなくなるし一方ある意味で言い訳もきかなくなる。先輩たちがレジェンドの座に甘んじることなく、地に足をつけた現役として走り続けるのだからなおさらだ。

 もちろん、若林神はそのことについて「できる人だけでいい」という注釈を付けてはいるので、あくまで「やってもいいし、やらなくてもいい」というスタンスの上ではあるのだが。

 

 

 今回のライブは、765AS自身の未来はもちろん、形は違えど今後様々な壁も見えてくるであろう後輩たちの道をも照らすものだったのではないだろうか。道なき道を切り拓いてきた先駆者が今回積み上げた実績は、まずは来年のMOIWで、そして数年後により高く評価されることだろう。

 

 

 

 曲の終盤。ステージ中を駆け巡り、最後は肩で息をしていた平田さんだが、それさえカッコよかった。そして暗転と共に、みんな大好き「Miracle Night」のイントロが流れ出す。これまた予想的中でニッコリしたが、「そういや先日のSSGミリシタ回で、ミンゴスはこの曲歌いたいって言ってなかったな。もう決まってたからか」と腑に落ちるところもあった。

 

 夢じゃない、このミラクルナイト。君がいるんだ――。

 このライブを象徴するような歌詞。今井さん、長谷川さん、沼倉さんの歌声の重なりもまた美しく、最後は涙しそうになった。

 

 

 そして滝田さんが再登場しての「光」、そしてそこから連なったのは若林さんの「灯」。

 灯はソロパートのトリだと思っていたし、そこで前日の空やかつての「約束」のように全員集合があると思っていたが、今回の構成としてはこの位置が適切だったのだろう。湿っぽく終わるのではなく、ひたすらに前向きに未来を語るのが今回の趣旨だったのだから。それにしても、観客も演者も泣かせてしまう曲だ。

 

 「自分の思い思いの色を灯してください!」

 

 間奏で、以前の特番で語っていた通りの言葉を告げる若林さん。私は全体曲のように、765ASの全色を掲げた。幸い手がデカいので、12本持ちはそこまで苦にならない。

 客席全体を見ても、グリーンを中心にしながらも、私と同じようにしていた方もそれなりに見られたような気がする。この光景は、絶対に現地で観たかったものだ。Day2で披露してくれたことに改めて感謝したい。

 

 日曜劇場みたいな土下座MCを経て、次の曲は「Honey Heartbeat」。あまりにもセトリ予想が当たるので後方彼氏面でうんうんと頷いていたら、次曲で幕張が沸いた。

 

 

 

■過去を超える決意

 「Nostalgia」。

 MA3曲でも唯一未披露(MR込み)の曲で、長谷川さんが並々ならぬ思いでこの曲を準備していることは容易に予想できていた。だから私は予想動画でも、美希ソロはアプデとこの曲しか挙げていない。今回はこの二曲以外はあり得ないからだ。

 

 初星での「追憶のサンドグラス」も強烈だったが、この日のNostalgiaも圧巻だった。前日のアプデとは対極の、カッコいい美希の曲だ。そして、過去を超えることをテーマにしたこの曲のパフォーマンスは、今回のライブを象徴するものでもあったであろう。最後の無印美希→覚醒美希→OFA美希のカットインも長谷川さんの要望だったとのことで、会場は沸いたのだが……沸いたのだが……。

 細かい表情を見ようと2階の高い席から見下ろす形で防振双眼鏡を覗いていた私は、当然スクリーンを視界に入れられず、痛恨の見落とし。アーカイブでやっと確認でき、ようやく感嘆することとなる。遠方からでもくっきりはっきり見られるのは防振双眼鏡の強みだが、こういうこともあるので次回の武道館やドームでは気を付けたい。使わずに済む距離で見られればそれが一番なのだが……。

 

 それにしても、最後の拳を突き上げて決めポーズをとる長谷川さんはひたすらにカッコよかった。この日のMVPに推したいくらいだが、Day2は中村今井の双璧もこれまた素晴らしく、誰か一人に絞るのは非常に難しい。嬉しい悩みである。

 

 畳みかけるように続くは原由実さんの「炎の鳥」。半音下げての力強い歌唱はライブ向けで、9thで「瞳の中のシリウス」をキーを下げて歌ったのと同様、好判断だと感じた。和装衣装を重ね着していたのは前日のソロと同じだが、手元には扇が。そう、ミリオンの「花咲夜」が7thRや8th、バンナムフェスで使っていたアレだ。



 原さんはこのライブと、SideMの彩を見て扇を使いたいと思ったとのことで、歌っている最中に閉じないようにするなど加工も施してこのライブに臨んだという。MCでもおそらく夜想令嬢やオペラセリアを念頭に、ヘッドセットでミュージカル風に歌いたいという夢も語っていた。今井さん・沼倉さんに次ぐほどに、以前から他ブランドに関心を持ち続けていた彼女だから発言にも重みがある。

 最後のシーンで炎の翼を背負った姿は突貫での演出だったそうだが、アーカイブで見られたその姿は彼女が「憑依型」の代表格であることも重なり、神々しいものがあった。

 

 そして、予想通りの「Kosmos, Cosmos」。

 「うんうんそう来るよね、俺は理解ってるよ」とドヤ顔で見ていた私だが、その次の曲で脳がバグることとなる。

 下田さんと、プロミ17の亜美真美衣装を着たダンサーさんによる「スタ→トスタ→」だ。

 

■下田分身

 よく言われてきたネタで、この日は下田さん自身もMCで「20年後にはできるようになりたい」と語っていた話である。しかし、まさかその直後にやるとは誰が思おうか。

 今や4事務所すべてに双子キャラがいるアイマスだが、765では当初はライブ前提でもなければ亜美真美がセットだったこともあり、演じるのはともに下田さん一人である。それゆえ時にギャラが二倍になったりはするものの、ライブではどうしても亜美真美の曲数は限られる。曲数は倍で増え続けてるのだから、9thを皆勤していた頃でも難しいものがあった。結果、初星はMA3の二曲、そしてこのライブもMA4の二曲となっており(複数人でYOU往を歌う説はあったが)、おそらく未回収のミリオンのソロ曲も披露はなかなか難しいままだろう。

 仕方ないこととはいえ、節々で語っていたように忸怩たる思いはあったのだと思う。その限界をある程度突破できたのがMR ST@GEで、負担増やハイリスクと引き換えに披露された、縦横無尽に亜美真美の二人が暴れまわるステージはMRの各公演の中でも大きな見所だった。MCのキラーパスは恐怖だったが……。

 それを経てのこの日の分身だったが、若干疲れ目になってきていた私は双眼鏡を使っていなかったこともあり、当初は「あさぽんと……仁後ちゃん?」と誤認したほどだった。ようやく分身とその仕組みを理解できたのは片方がプロミ衣装で、マイクではなくリウムだと気付いたAサビの頃だったか。音源の使い方も、思えばMRでやっていた手法だ。

 「やはり天才か……」。MR以外では難しいであろう「共演」に一つの解(≠最適解)を出した下田さんに大きな拍手を送っていたら、次曲はまったく予想していなかった「目が逢う瞬間」。MA1曲の連発に会場が沸いた。

 

 

■やっぱり中村繪里子今井麻美なんだよな

 小さいイベントではちょこちょこ歌う機会があったものの、フルライブでは5th以来12年ぶり。当然私は生で浴びるのは初めてだった。しかし、ここまで演者と歌そのものの成長を感じさせるステージになるとは。コロナ禍の間もソロ活動できっちりライブを積み重ねてきたのもあり、今井さんの仕上がりは完璧だった。後日アーカイブで見ても、やはり圧倒的だった。

 今の彼女なら、10thの細氷やハッチポッチのアライブファクターの時よりも、遥かに仕上がっているのではないか。そう感じさせるだけの歌唱だったと思う。今回はレッスンも制限がある上にかなりの詰め込み式だったし、まして中村・今井・仁後のハート組はミリオンのシーズンエアーのレッスンと出演をこなした後の合流なのだから余計にきつかったはずなのだが。

 この後の曲でも溜めに溜めたエネルギーを爆発させた彼女だが、石橋を叩いて渡らないような発言が求められる立場だっただけで、きっと秘めたる思いはキングや若林神に劣らないものだったのだろう。

 そして、もう一人。

 

 

 ソロパートのトリは、中村さんの「I'm yours」だ。

 今回のライブがこれまで紡いできた文脈が乗ると、この曲はここまで化けるのか。中村繪里子のステージパフォーマンスが乗ると、ここまで違うのか。

 率直に言って、初めて聴いた時とはまったく別の曲のように聴こえた。我らがセンターが熱唱したのは、高らかに謳う未来への希望だった。歌詞カードを見直すと、このライブのテーマが凝縮されているようにも見える。

 

 中村繪里子

 彼女より歌が上手い演者なら、踊れる演者なら、アイマス全ブランドの同性演者ではきっと何十人といる。それでもこのセンターのポジションは、ブランドを、いやコンテンツを17年引っ張ってきた中村繪里子だからこそ張れる立ち位置なのだ。ステージ上で世界観を作るという点に関しては、アイマスを引っ張ってきた双璧だからこそできる領域がある。

 

 振り返れば、あの10thの後。それまでコンテンツという船を作り、航海を仕切ってきた船頭がかなり唐突に船を降りた。坂上Pが言っていた「あの件」は当時は彼なしでは為し得なかったスタマス計画であろうし、あるいは765ASの指針そのものかもしれない。

 彼女たち自身もアイマス2の頃からの続けてきた無休の旅を一区切りして休養に入ったし、フラッグシップは765が作った追い風を理想的な形で受けた後輩に託された。

 その後。どうしていくべきか、後輩たちとの距離感や後発ブランドにおける立ち位置はどうするのか。メンバー内でも葛藤と温度差があったのは、各種資料やコメントを見ていれば外野からもわかる。曖昧さが残る中での再出航だったが、初星とプロミ18を経てようやく全員のベクトルが一致し、19年後半に本格的に再始動。ミリオンでの立ち位置も52人体制として定まり、アイマス自体も5ブランド合同という新たなフラッグシップの形を整えていざ15thへ――というタイミングでのコロナ禍となった。

 それでも心は折れず、スタマスや合同もあるのだから20thまではやろうという覚悟も決まっていたのだろう、と思う。もちろんミリシタが今のような形になった以上、少なくともバンナムがいつかミリシタを畳むまでは一区切りというわけにはいかなくなったという事情もあろうが。

 

 話は戻る。

 

 かつてたった30人ほどのステージとも言えないステージからスタートし、やがてバンナムフェスという形ではあるが東京ドームでメインまで張った彼女が、「見たことのない景色を見せて」「キミの手を離さないと誓うよ」と歌う。

 この曲は明確にコールするパートがあるだけに、声を出したい、彼女の名を呼びたいという思いを胸に秘めながら、私は彼女達にできることは何なのだろう、と考えていた。

 一つ言えるのは、彼女たちが20thとその先さえ見据えて区切りを作ることをやめたのだから、付き合い方はどうあれ私も区切りを作るのをやめる。応えるなら、それしかないのだろう。

 強いメッセージを打ち出した、最高のソロパートのトリがあったからだろうか。続くNMCは、昨日よりより力強く、意志に満ちた楽曲に聞こえた。

 

 

 

■願い続けた夢が叶った日

 アンコール前の新情報はくまみねさんのコミカライズの始動くらいで、ちょっと残念だったのは否定しがたい。とはいえ17周年生配信で何かしらの発表はあろうと思っていたので、そこまで失望感はなかった。(とはいえ、まさかあれほどの特大情報の数々が投下されるとは)

 

 それよりも、である。

 アンコールの枠は二つ。おそらく総替えである。会場で、そしてLVや配信で固唾を呑んで見守ったPたちの関心は、ほぼこれに占められていただろう。

 

 「M@STERPIECEはやるのか?」

 

 今なおアイマスの頂点にあると言っていいこの曲だが、765AS全員で揃って歌えたことはまだない。また、演者個人としては若林さんが未披露でもあった。

 今回、条件は全て整っている。何ならAS+でもやれる。やるのか。まさかやらないのか。いや――ここまでやりきってくれたライブで、披露しないわけがないだろう。

 

 社長のアナウンスの後の静寂。そして待ち望んだ最初の一音が鳴った瞬間、もはや漏れ出るという域を超えた大歓声が幕張メッセイベントホールを覆った。

 

 私もおそらく歓声を上げてしまったのだろうが、イントロでボロ泣きした以降はまったく現地での記憶がない。この瞬間を記憶に刻もうと誓っていたのに情けないが、ただただ幸せな6分弱だったのだけを覚えている。

 かつて、複数の事柄について一区切りをした10thの開催時、私は仕事で海外にいた。前年の14年から決まっていた日程で、ピンポイントにライブのある週とその前後を直撃したのだが……いや今回のライブも色々直撃で大概だったのだが……ともあれ、マスピを生で浴びたことがないというのは最大級の心残りであり後悔だった。

 それが、765AS+のフルメンバーの歌唱というこれ以上ない形でようやく見られたのだ。ただただ感無量だったし、この瞬間のためにアイマスを追い続けてきたと言っても過言でもない。

 

 けれど、全員集結のマスピでさえ集大成ではなく通過点。そう言うかのように、最後のMCで彼女達は未来への希望を語り続ける。そして、ここしかないという形での原点の歌マス。最後まで笑顔いっぱいのまま、あくまで全員が揃った夏のライブとして、最高にカッコいい765AS+はステージを去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 今回やらなかったMTW曲も、もう少し先だが披露のタイミングはあるだろう。また、せっかく揃っていたのだからLEADER!!もやってほしかったという声もあるが、これもやらなくても良かったと思う。何故ならば。

 

 LEADER!!が、そして衣装のエボリューション・ウイングがまとったメッセージは、このライブにこれでもかというくらいに散りばめられていた。この曲と衣装があったからこその今なのは間違いないし、その今を表現する場として今回のライブがあった。

 それで充分なのではないか、と私は考える。

 

 もちろん見たいは見たいので、来たるドームやいずれ必ずある765ミリオンで披露はしてほしいけれど……。

 

 

 

 

 

 

 

■終演、そして

 

 765AS史上最高で最強のライブは終わった。

 

 願い続けた夢が叶い、いくつもの心残りやわだかまりも氷解した。それでも、会場を出た私は高揚感がいっぱいで、節目のライブが終わった時特有の寂寥感はなかった。

 きっと、「765ASはどんな形であれこれからも走り続けるし、まだしばらくはそれを追えるのだ」と改めて確信したからだろう。もちろん時にモヤモヤすることはあるだろうし、コロナや天災、緊迫の一途をたどる世界情勢のような理不尽のしわ寄せを食らうこともあるかもしれないが。

 

 フォロワーさんたち数人と屋外で簡単な感想会をさせてもらったが(時節柄打ち上げは避けたが)、誰もが満足で感無量でありながら、まだこれは集大成ではないと感じていたのが印象的だった。

 それはいつかは来るのだろう。でも今日ではない、と。

 

 

 

 

 

 ライブのアーカイブが公開された直後の17周年生配信では、本来なら2021年に予定していたであろう5ブランド合同での東京ドームのライブを2月に実施すると発表された。その前の1月にはミリオン9thがあるし、待望の765ミリオンも早ければ来秋あたりに開催される可能性がある。ミリオンのアニメは……1年数ヶ月前から収録やっているのだから相当の尺にはなりそうだが、まあBCくらいの出番があれば十分と思う。まずはきっちりミリオンスターズの話をやり切れるかだろう。

 MRプロジェクトも動き出したし、あるいはこれまでの据え置きを踏襲するなら、スタマスモデルでもう一本という動きも水面下では始まっているかもしれない。

 765AS単独はちょっと先になりそうだが、待ち遠しい出来事は、まだまだある。我らがセンターが歌った「次の旅」も、きっと楽しめるものだろう。

 

 

 

 

 19年末から20年初に輝いていた希望の灯は消えてしまったけれど、その灯は幕張でもう一度、力強く照らされた。

 その灯が指し示す来年はもっといい年になると願って、ライブレポの筆を置きたい。