紫電Pの雑記帳

ニコニコのブロマガ閉鎖に伴い移転しました。主にアイマス関連の記事を書きます。2021年9月以前の記事はブロマガから移行したものです。

#アイマスMR の真回と千早回を見て、アイマスの未来の可能性と課題を感じた

横浜市のDMM VR THEATERで開かれているTHE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆」 。そのうち5/11と12の両日に開かれていた、菊地真主演回千秋楽と、翌日の千早主演回の2回目、3回目に行ってきた。タイトルの通り大きな可能性と、避けては通れない課題も感じてきたので、以下レポとしてまとめたい。
当然ながら、話題になった昨日の千早回も含めてネタバレ全開なので、読み進める方はその前提でお願いします。




(9/29追記 2ndシーズンについても書きました http://ch.nicovideo.jp/sidenp/blomaga/ar1652747



■口コミに誘われて、横浜へ

結論から言うと、アイマスMRはこれまでのライブと同様に「観客も一緒になって作る優しい世界」だった。ただ、より試験的で新しい分とがってもいて、今までのそれと違った魅力と危うさが同居していた。





私は今回、11日の真主演千秋楽12日の千早主演初日の2、3回目の計3公演に参加した。
ただ、今回のアイマスMR(MR ST@GE)、当初は行く予定はまったくなかった。1時間という短い公演時間、やや割高感のあるチケット、何より私が遠方の地方民でそうそう県外に出られない仕事をしていること。プロミを8月に控え(ゲーム先行では確保できなかったが)、初星宴舞とその後のアイマスライブBD買い漁りによる出費がえらいことになってることなどなど……。

ちなみにアイマス歴は2007年2月からなのでもう12年目だが、アイマスライブに生で参加したのは1月の初星宴舞が初だった。その辺りの筆者の背景と初星レポについては、興味のある人だけは前回の記事を参照していただければと思う。


話を戻す。そんな行く気がなかった私が交通費込みで5万円超えの出費を決断したのは、連休序盤から始まったアイマスMRの春香回や真回の好評を聞いてだった。
アイマスMRがどういうものかは説明を省くが、主演アイドルについては中の人が裏手に控え、ゲームでは採用されていない生歌2曲をフルで披露し、MCでは観客と会話している。そして、徹底してアイドルのライブという体を貫く。色々と語りたいであろう中村先生が「いってらっしゃい」ツイートしかしなかったり、アイステ組もあくまでその場に立ち会ったという表現に留めていた。
MCでも声優名には反応せず、春香回では「アイマス」という言葉にも「公演の名前ですね」と反応したらしい。つまり、それがアイマスMRという世界のルールなのだと。やんわりと観客に広めたのだった。一方で、横浜観光の名所に「港の見える丘公園」を挙げたPに、春香が「なつかしい感じがします」、真が「思い出の場所」と答えて古参殺しをやってのけるあたり、ただの試験的試みではないのは感想を見ていて明らかだった。


港の見える丘公園は、いわゆる聖地。アケマス・無印箱マスにおいて作中の重要なシーンで使われる場所だった。(アイマス自体、舞台における横浜周辺の採用率は高い)




※せっかくなので、横浜観光のついでに私も行ってきました。





そういった春香をはじめとした公式サイドの姿勢と(広告、告知は足りてないと思ったが)、きゃのんPはじめフォロワーの皆様から流れてくる絶賛の声を聞いて「これ、行かないと後で後悔するやつだな」と思い無理してチケットと休みを取った。だって、どういう形であっても真や千早と「会う」機会が今後来る可能性はそう高くない。少なくとも、後悔するにしても行ってからにすべきだ。ターゲットを真と千早に絞り(響も行きたかったがうまく日程が合わず)、慌てて旅の手筈を整えた。



そして、その直感は正解だった。






菊地真が、そこにいた

真公演は計3日間9回公演のラスト、千秋楽だった。かなり無理と犠牲を重ねて開演ギリギリに横浜にたどり着き、とんでもなく甘いたるき亭ブルーを片手に座席へ。男女比は驚きの6:4。初星初日や地元のDVはせいぜい8:2だったから、さすがは真というべきか。


真公演のセトリは以下の通り。

  1. ONLY MY NOTE
  2. 魔法をかけて!
  3. 私はアイドル♡
  4. L・O・B・M
  5. エージェント夜を往く
  6. 静かなに願いを…
  7. Vault That Borderline!
  8. THE IDOLM@STER
  9. tear
  10. MCパート
  11. READY!!
  12. Happy!
  13. CHANGE!!!!
  14. 自分REST@RT
  15. MUSIC♪
  16. 自転車
表はニコ百の記事より。持ち歌を歌わせてもらっているケースや、後述するが特定の意図を持って組まれたトリオ・クインテットが多かった。
例えば、魔法をかけて!は記念すべきあのMP01のジャケットの面子。



13年前のCDだけど、初見で気付いた人もいたはず。


真の生歌フルはtear自転車。特に自転車は真のソロ曲では一番好きな曲で、ぜひ生で聴きたいと思っていた曲だった。
座席は9列目の右側真ん中あたり。個人的には、3ヶ所で見た印象としては、見るだけなら最前列ではなく3~5列目「真ん中」の辺りが、一番見やすくMRのウソも目に付かないかな、という感じだった。ただ最前列にいると、ソロ曲やMC中に勘違いじゃなくアイドルと目が合う。あれはやばい。

公演は約1時間という短時間。次々に曲が切り替わるのもあって1曲ごとの余韻は少なかったが、仰々しいゴーグルなんかをつけているわけでもないのに、長年追い続けたアイドルたちが目の前で公演をしているというのは不思議な気分だった。セトリもHappy!を除けばOFAまでの曲なので、古参や近年アイマスから離れていた人もホイホイする内容と言える。多分、メインターゲットは完全に765Pに絞っていたのだろう。


主演の真のソロ、1曲目はtearだったが、とにかく仕上がっていた。
アイマスMRの強みは、中の人にダンスの負担がかからないことだ。歌うだけでも簡単ではないtearを、真がキレッキレのダンスを踊りながら歌う。ステージで見ると、思った以上に華奢に感じる身体をめいっぱい使って。バックダンサーさんが入ることで、立体感はそれまでの数倍になり、一気に現実感が強まっていく。
真自身もダンサーさんがリアルタイムモーションキャプチャーをしながら踊っているので当たり前なのだが、その動きはとにかく生っぽい。ソロ曲が始まる瞬間に、それは観客の誰もが気付けるくらいに。10年以上追いかけてきた菊地真が、本当に私の目の前の、ほんの数メートル先のステージに立っていると感じられるのだ。
ダンスの負担がかかっておらず、公演自体も9回目かつ最後というのもあるのだろう、平田さんの歌声も全力全開だった。

一言でまとめるなら、みんなが感想で言っている通りだ。アイドル菊地真が、そこにいた。


「ああ、来て良かった。一生後悔するところだった」

この感覚は、仮にアイマスMRが円盤になっても味わうことはできない。真の公演を見れただけで、クインテット諭吉バーストの価値はあったと思えた。

tearが終わったところで、そのまま真のMCタイムとなる。モーションは歴代アイマスのコミュのそれをベースとしつつも、真っぽい快活な感じ。かわかっこいい。

真に指名された方は3人とも(多分)最前席の方。うち一人は菊地真レーシング?のタオルを持っていたっぽいし、他のデュンヌさんも黒ベースで真に合わせたらしい黒系の装いだった。どういう当て方をするかはその日によって違うようだけど、わかりやすい格好の方が当てられやすいのかも……。
で、真もそのデュンヌに「可愛いですよ」とか流れるような王子様ムーブ決めてたし。見てるか白瀬、これがアイマスの元祖王子様やぞ。

中身は定番の横浜観光の話で中華街を挙げたPと北京ダック食べたいとか、仕事から直行したスーツ姿の多さに「ボク以外をプロデュースしてたんですか?」みたいな拗ねまこだったり。横浜周辺についてのたわいもない話をしたり、かわいい台詞とかっこいい台詞を選ばせたり。前者はきゃぴるんな感じでまこにゃんにゃん、後者は今夜は帰さないよ的なあれ。あまりアドリブ力はいらないMCだったけれど、過剰に平田さん成分が漏れることもなく、真らしかった。
そんでもって、真は最後の曲の衣装選びを観客に委ねたいという。衣装はスリーピングプリマとフォーエバースター☆☆☆。「うわあああ」となる場内。


スリーピングプリマ。7thの衣装がベースになっている。

フォーエバースター☆☆☆。アニマス最終話の衣装がベースになっている。



【追記】後でわかったけど、ステラステージのカタログつながりだった。




だいたい7:3で前者が選ばれた。うん、自転車ならそうなる。その後はジブリなど盛り上がる曲を何曲か続けて、いい感じで場が暖まったところでいよいよ最終曲に向かう。

にしても、ゲームのモーションの投影とはいえ、こうして等身大サイズでアイドルたちがステージに立ってくれると、普段はわかってても意識していないところに気付ける。

例えば、やよいや響は本当にちっちゃいし、センターの機会が結構ある律子もそうだ。対して亜美真美は身長だけすっと伸びて身体全体はまだ成長についていってない感じがしっかりわかるし、千早はすらっとした手足が綺麗だな、と思う。
そしてあずささんと貴音は本当にスタイルがいい。特にLOBMで水着でダンスしたあずささんはそりゃあもう




……そんなこんなで自転車。

かわかっこいい路線、ステラステージでも示された男の子も女の子も魅了するアイドル・菊地真のあり方の一つと言えるこの曲は、ただただ観客を幸せにした。
ライブ経験の浅い私は、真に対して自転車のコールである「好きっだよー!」ができたのが嬉しかったし、残っているエネルギーをすべてつぎ込んだかのような歌唱も本当に素敵だった。ダンスも「クールも可愛いも叶えてみせる」ではないが、真のかわいさ、かっこよさを余すところなく表現したものだった。ジャンプもしっかり決めた。歌とダンスを両立できるのは、やはり今回のような環境だからこそだろう。ダンスが重い負担になっている現在のASにとって、やはりこのアイマスMRは一石を投じてくれそうだ。
アイマスライブはよく「演者と観客の共同作業でアイドルを顕現させる儀式」なんて言われる。10th細氷はその最たる例だろうか。今回のアイマスMRも、普段のライブと形は違えど、紛れもなくアイドルをそこに立たせる夢のような時間だった。

真の終演の挨拶は、それまでの内容とちょっと違ったらしい。
この場に立てたことの感謝を真摯に繰り返す真と、思い思いの感謝の言葉を送る観客たち。そのやり取りがたまらなく真で、会場を埋めたPもデュンヌも、等しく魅了していた。そして、終演後のアイマス最高のコール(千秋楽だけだったらしい)。横浜まで来てよかった。

ありがとう菊地真、ありがとう、平田宏美さん。









■千早主演初日2回目。そして、3回目の衝撃


翌日の千早公演は2回目の公演チケットを格安で譲っていただけることになり、午前中の観光後に合流。お話をした限りでは前の方だろうと思って敢えて聞いていなかったのだが、なんと最前列AA席だった。あなたが神か。

実は前日の真の時も含めて、当てられたらこう答えようというイメージだけはしていた。
横浜なら中華街の関帝廟。これは私が三国志クラスタであるのもあるが、お勧め(あるいは一緒に回りたい)観光地を聞かれたら
「中華街の関帝廟は商売繁盛の神様なので、一緒に祈願したいです。真(千早)がこの先5年後も10年後も、ステージに立ち続けられるように」
と答えるつもりだった。これなら本心を伝えてもアイドル本人とその向こう側のどちらにも通じるし、バッドコミュにはならんだろうという目論見だった。ついでに、モノマネ頼まれたらいおりんのツンデレ芸をやってもらうつもりだった。



関帝廟。ちゃんと765ASが20年後も活躍できますようにと祈ってきました。



千早回のセトリは以下の通り。

  1. ザ・ライブ革命でSHOW!
  2. We Have A Dream
  3. 愛 LIKE ハンバーガ
  4. スタ→トスタ→
  5. 待ち受けプリンス
  6. my song
  7. i
  8. THE IDOLM@STER 2nd-mix
  9. arcadia
  10. MCパート
  11. READY!!
  12. Happy!
  13. CHANGE!!!!
  14. 自分REST@RT
  15. MUSIC♪
  16. 眠り姫

最前列はやばかった。端の方なのでどうしても表現上の粗も中段の席以上に見えてしまうところもあるのだが、とにかくアイドルが近い。ソロ曲以外でも、目があった、こっち向いたと誤認する。ドキッとする。千早まで、真まで、ほんの十歩足らずだ。


そして、mysong。

セトリは見ないようにしてきたので、実はmysongがどういう組み合わせかは知らなかった。そして、イントロでぐらっときた。律子、美希、やよいだ。ツイートでも後で書いたが、



生歌でも何でもないのに崩れ落ちそうになった。アイマス、お前、ほんとそういうとこやぞ……。






そして待望の千早ソロ。1回目の公演の情報は封鎖していたので、2回目のこの時、何を歌うかはわからないままだった。ダンサーつける以上は「arcadia」か「眠り姫」は来るだろうなーと予想はしていたのだが。





1曲目はarcadiaだった。

スレンダーな千早がシンクオンリーユーを身に纏い、私の目の前でそのしなやかですらっとした手足を伸ばして、響・真もかくやというダンスを見せる。イナバウアーのようなポーズもあり、ちょっと動きすぎにも感じたが、Da全振りした千早の可能性、歌だけではない千早の可能性という意味では大いにありだった。歌い終わった後、肩で息をしているのも芸が細かい。

千早の新たな魅力が、そこにあった。

ただ、ダンスの制限を取っ払った条件下の割には、千早の声の伸びがやや抑え目に聞こえた。高音も普段より張り上げる感じ。もちろんこの曲は難曲だし、ダンサーに合わせたり制約も色々あるから、必ずしも制限解除がクオリティアップにつながらないのはわかっている。
その時は「比較対象の問題か、まだ試運転なのかな」と感じた。


※2回目終了後のツイート。この時点では状況を読めていなかった。


野球民兼任なので例えが野球で恐縮なのだが、この後の2回目眠り姫も含めて、千早は例えるならば「大谷翔平の投げる球が150km台前半しか出てない」状態だった。好調時、短いイニングなら165km連発、長いイニングを投げる先発でも160km前後を投げる投手が、だ。もちろん150kmを平均して超えてくるのは一流投手のクオリティだし、合格点は超えている。ただ、QSは達成していても6回2~3失点くらいの内容に違和感は残った。それでもこの後のMCが千早節全開だったのもあって「まあ力配分だよな。仕上げまくってCD音源を凌駕した10thや初星を比較対象にするのもアレだよなー」と流したのだった。



そのMC。「春香のようにはできない」と前置きしただけあって、これが実に千早。
最後のソロ曲に向けてボイトレをしたいそうで、曲のリクエストを振ってくる。当然あっちこっちから「細氷」(1回目はこれだったらしい)「約束」「目が逢う瞬間」といった千早曲が次々に挙がる。ぷちます曲の「choco fondue」という声が上がると、すかさず「季節が合わない」とばっさり。指名されたと間違えて立ったPに「あなたではないわ」と火の玉ストレート。実に千早である。でもさすがに9393はしてなかったと思う。

そんな千早と、目が、逢った。確かに間違いなかった。

(どどどどうする俺はSnow white推しだけどさっきchoco foudueに季節合わないって言われたじゃん。や、約束いやあれは765揃ってこその曲だししかし千早綺麗だなとにかく落ち着け落ち着けけけ)

「2列目の白黒?のシャツを着た貴方」

私も勘違いしてて、当てられたのは真後ろのA席のPだった。しかも名前まで呼んでもらってた。ぐぬぬ

その後、指名の末に千早が選んだのは蒼い鳥。自身にとっても思い入れの深い曲ということで、アカペラで一節を歌ってくれた。かなりエフェクトはかけているように感じたが、さすがは千早と思えた。


大トリは眠り姫。ここでアイマスMRに新しいギミックが登場する。ステージ中央に背もたれ付きの椅子が置かれ、歌い始めた千早がそこに座るのだ。

衣装は私がステラステージの衣装で一番好きなオーロラディーヴァ。


※プラスタではそれはもう取得が大変なアレだったという。ステラステージならソロを育てれば容易にゲットできるのでみんなステラステージやろう。

まだ試験的ということもあって、ドレスの裾は椅子を貫通していたし、歌い始めて数秒は千早の右手がガタガタ震えてたりもしたが、ちょっと伸びを欠くものの歌もしっかり歌えていた。特に大サビに入る辺りからエンジンが全開になり「やっと本気の千早が見れた」と感じた。

これなら、慣れてきた3回目はさらなるクオリティが期待できそうだ。連番で入場したPと別れて、この記事の構想をまとめながらその時を待っていた。後で振り返ると、こんな余裕のツイートもしていた。



落ち着いて見ることも、記事の構想も見事にぶっ飛んだのだが。









3回目は後ろから数えたほうが早い11列目。千早のハッピを着ておられたガチ勢の方から名刺をいただいたり、近くの方とだべったりしながら開演を待った。最初の各曲ももう見慣れたもので、いわゆる担当以外の子もゆっくり見る余裕があった。


そして、ソロ曲のarcadia
冒頭に音が入らず「おいおい音響トラブルか」と思ったがそうではなかった。

声がかすれて伸びず、ところどころ切れる。得意の高音が維持できず普段裏返さないところで裏返す。音響が必死にカバーしていたようだが、明らかに千早は異常だった。

客席もコールを送りながら、明らかに困惑していた。それまでの公演でもこんな状態ではなかったし、特に初見では「これも演出なのか」と感じた方もいたようだ。千早は、今井麻美は、これまでに歌声を失いかけたことがあったから。だが、そんなレベルではなかった。たぶん、如月千早として、今井麻美として、ステージでここまでの状態になったのはアイマスの歴史の中で初めてだったのではないか。


異様な雰囲気が残る中、MCが始まる。冒頭、千早は体調を崩したことを報告した。それは本来なら、千早ではなくミンゴスの問題だ。しかし中の人の存在を見せないアイマスMRでは、あらゆる不調はすべて「千早の不調になる」。千早は申し訳なさそうに俯き、言葉に詰まる。

ここに来て、ようやく客席も事態を完全に把握する。
私もこの時、2回目公演直前に、音響調整で現場に入っているフェチ川さんこと中川浩二氏がやたら厳しい表情で横を通り抜けていたことを思い出した。
深刻だったのだ、彼女のコンディションは。おそらく最初から。2回目のラストの眠り姫でも、あるいは力配分をせず無理をしたのかもしれない。

千早は言う。自分はプロ失格だと。そして続ける。本来なら最後に眠り姫を歌うつもりだったが、このコンディションでは……と。どうしたらいいのか、と泣きそうな声で訴えてきた。

■現実のコミュは、三択ではなく自由回答


ソロ曲のネタバレまでしてこんなことを言う彼女に、我々はどんな言葉をかけたらいいのか。

「頑張れー」と声が上がる。それ、2回目でも具体性がないって言われてたんですよ。今泣きかけの問題児に。
「み、みんなで歌おう」と声を上げた奴がいる。アホか。約束ならともかく眠り姫をみんなで歌ってどうする。誰だよそいつ。はい、俺でした。

そんな中「俺が歌う」と大声を上げたPがいた。緊迫した空気が少し緩み、客席から笑い声も上がる中千早が反応する。「歌詞を覚えているのですか?」と。再び笑い声。また少し、空気が緩んだ。それで、会場が救われた。

アイマスでは、コミュは基本三択。稀に四択だったり二択だったりもする。そしてそのどれかは正解だ。でも、こういう場でプロデューサーとして聞かれたら、我々はどう答えるべきだったのか。そもそもあの瞬間に、パーフェクトコミュニケーションになる解答はあったのか。アイドルの窮地に自由回答欄を突きつけられた我々は、少なくともパフェは引けなかったのだ。

そんな中、千早は衣装選択をしたいという。これ自体は他の子でもあったもので、この時はオーロラディーヴァとシーブルームカーテン、要は水着。



千早のライブではネタ衣装なので、本来ならここで笑いを取る場面だったのだろう。ただ、現状はそれどころじゃない。観客席も「いやいやいや……この状態で水着はねーでしょ」という空気だし、なのに千早はこんなコンディションで歌うくらいならいっそ水着でとか言い出すし。
幸い、ここでも「お腹が冷える」と指摘した声もあって無事オーロラディーヴァになった。


最後のソロ曲に向けて千早は言う。励ましの言葉がほしい、と。当てられたG-15番席P(仮名)は「大好きだよー!」と叫び、千早に「今はそういう時ではないかと」と見事にバッドコミュを引く。気持ちはわかるけどそらそうだ。前代未聞のトラブル下にあっても、千早は全力で千早だった。

多分、ここでグッドかパフェを引くには「俺は千早を信じているし応援している。失敗してもいいから、今出せるものを出せばいい」だったのだろうか。システム上で、休めという選択肢がない以上は。

アニマス19話ラストと次回予告を突きつけられたあの時のような気分で、後半戦が始まった。



■眠り姫と、優しい世界


最後の眠り姫は、先ほどのarcadiaほどではないにしろ、やはり2回目に比べても苦しい、苦しい歌だった。
胸が締めつけられるような歌声。どうか大事にはならないでくれと祈りながらサイリウムを振り、あるいはそれさえも忘れてステージを見つめるPたち。ただ不思議なもので、それが逆に現実との境界線をさらにあやふやにして、パフォーマンスを発揮できない状態の千早を応援する、という没入感を感じていた方もいたのではないか。普段の彼女の歌とは違った感情を揺さぶられた方もいただろう。あの瞬間、確かに我々はお遊びではなく本気で千早を応援していたのだ。
もちろん、こんなの千早じゃないという声も後で見られたが、私はただただ、頑張れ、頑張れ、無事にやり遂げてくれと願っていた。


ボロボロになりながら、千早は歌う。こんな千早を、そして彼女を応援したことは、たぶんどの千早Pもないはずだ。
美談にしようとしていると言われるかもしれない。でも、かつてない苦境に立つ千早に声援を送ることは、ある意味で、あの場にいた数百名だけに許された、貴重な機会だったのかもしれない。千早が約束を披露したアニマスの20話、そして眠り姫で復活を遂げた21話のライブに参加した観客たちのように。
こんな経験をできるのは、きっと後にも先にも昨日の3回目に参加したPたちだけだ。


ラストの大サビは、払底しかけている力を絞りつくして持ち直す一方、一部でキーを下げた。でも、結果的にはそれで大火傷は避けられたように思えた。

今できるベストを尽くす。プロ失格と自嘲しながら、「彼女」はプロとしての意地を見せたのだ。


多分、CD音源や補助用の加工音源自体は用意されていたはずだ。おそらく、差し替えも選択肢に入れていた状況だっただろう。それでも、それだけは彼女たちが最も避けたいことのはずだ。原因が自分でプロ失格であろうとも、それをすることだけは。

曲が終わり、送られる拍手と歓声。千早は重ねて謝罪する。楽しみにして来た人たちを怒らせてしまったかもしれないと。すかさず「次回も来るから」「また頑張ろう」と声が飛ぶ。みんな、優しかった。






ああ、そういうことかと得心がいった。



■我々が観客でなくプロデューサーなのは、最後の安全弁

アイマスMRも、我々は観客でありながらプロデューサー(たち)。普段のアイマスライブよりさらに歪な感じもあったが、トラブルがあったことでその意図に気付けた。要は、この脆い世界を維持するための安全弁なのだ。
観客ではなく、プロデューサー扱いなら多少メタってもごまかしが効くし会話の幅も自由度が増す。この3回目、仮にアイドルと観客という関係だったらどうなっていた? 破綻の可能性もあったかもしれないし、公演中止もありえるレベルだ。

即興要素の強いMCで、厄介が多かったら? ASのように声優キャリアとアイマス歴がほぼ重なっているベテランならばある程度のことはキャラとして対応できるだろうが、これを将来他のカテゴリまで広げた時にアイドルと観客ではリスクが高まる可能性がある。

今日のように万一のことが起きた際の――まさかアイマスの魂と言える存在がステージに立つ日でこんなことが起きるのは想定外だっただろうが――そのための、「プロデューサー」だったのではないだろうか。世界にゆとりと万一のための余裕を持たせるために。




まあ、プロデューサーでないと真のまこまこりんムーブとかいおりんの罵倒マジ最高!とかはできないので、そういうのもあるんだけど。
そもそも古参向けかつ1時間で実質7000円の決して安くないチケットなので、今回についてはもともとある程度のリスク排除はできていた、のかもしれないが。





■どこまでも昨日を越えないと気の済まない女、如月千早


初星宴舞2日目、ミンゴスが言い放った名言だ。彼女たちに共通する精神だと思う。



千早は再起を誓いつつも、それを見にこれない人も多いことを詫びていた。涙声で時折言葉にも詰まっていたが、さすがのリアルタイムモーションキャプチャーも、涙までは再現できない。でも、きっと、瞳を潤ませていたと思う。
本来の台本も崩壊していたので、予定されていた観光地に行く話の前に、次週に向けて病院に行ってしっかり治すという千早の即興のコメントが入り(そこでプロデューサーも人間ドックに、と言って笑いを取ったのはさすがだったが)、話の前後が綺麗につながらなくなったりもした。


悔しかったと思う。彼女に、彼女たちにとって、十数年の歴史の中でもおそらく筆頭に数えられるほどに。

だからこそ、私は思う。如月千早は、今井麻美は、このまま終わるようなタマではない。これまでそうしてきたように、失敗した分は必ず取り返しに来る。今井麻美として「眠り姫」で取り返す場は当面巡ってこないだろうが、如月千早としてはあと2日、チャンスがある。少なくとも千秋楽の27日、千早はとんでもないものを見せてくれるだろう。私は見に行けないが、そう確信している。

うん、こういうのが彼女にさらなるプレッシャーかけているってわかっている。でも、色んな難しい事情は増えているけど、あらゆる障害やトラブルを踏破してきた彼女たちを信じたいじゃないか。

どこまでも昨日を越えないと気の済まない女、如月千早。彼女はきっと、アイマスMRの舞台で今度こそ力強く羽ばたいてくれるはずだ。

頑張れ、如月千早












「頑張れと言われても、具体的でないと……」





はい。昨日そうおっしゃってましたね貴女。ノーマルコミュニケーション。









■未来につなげるために





技術的な話は、それができる人に譲る。端から見ると立体感に難が出たり、交差する場面で遠近感がなかったりとか、背景と衣装の兼ね合いで脚が透けたりというのも、これから少しずつ改善していくのだろう。千早のトラブルやそういうところも含めて、まだまだ課題は山積している。コスト面でも、人件費からすればこれより安価にするのは簡単ではないだろう。




さて、キャリアが長いだけの古参Pとしては、
「みんな一度は行ってみてくれ、アイマスMRはいいぞ」
これに尽きる。



担当がいなくてもいい。当初ガラガラの懸念があった席は、口コミでかなり埋まった。千早の千秋楽以外はまだ残席が少しあるらしいので、残りを埋めて満席にしてほしい。後方の座席でもチケット代に値する価値はあるし、千早公演のMCでは結構後ろの席でも指名されることがあった。私のように往復の交通費だけでも諭吉がトリオバーストするような地方民はともかく、関東民はぜひ一度足を運んでほしい。特に古参なら、きっと後悔はしないはずだ。




そして、みんなで次の機会につなげてほしい。今公演が好評なら、秋辺りに美希や伊織といった後発組にもチャンスが巡ってくるかもしれない。あるいは、既に公演を終えた春香や真、再起を期す千早たちにもアンコール公演のチャンスがありうるだろう。
もしかしたら、8月のプロミやその先のライブで、さらなる進化形だって見れる可能性もある。さらに遥かな未来、我々が光る杖を振るようになる頃まで、ASが一線に立ち続けるためのアシストをアイマスMRとその系譜が果たせるかもしれない。

そしてステラステージもプレーしてほしい。アイマスMRで躍動した彼女たちの新たな魅力に、きっと出会えるから。

せっかくの好機、みんなで広げよう。まだまだ765ASは前に進めるはずだから。










最後になりましたが、千早公演2回目で神席を格安で譲っていただいたひでいちP、またしても私を沼に引きずり込んだきゃのんPはじめMRの感想を拡散してくださった多くのPに、感謝を申し上げます。駄文をここまでお読みいただき、ありがとうございました。









(5/18追記)
思った以上に多くの方に読んでいただき、本当にありがとうございました。私の記事が、少しでもアイマスMRへの関心につながったのなら幸いです。
また、先ほど終わった千早主演2日目の感想を見る限り、今日の千早はしっかりコンディションを戻して歌いきった様子。ミンゴスがSSGを休んだときはどうなるかと思いましたが、ひとまず安堵しました。
千早の主演日は残り1日。千秋楽でどんなパフォーマンスを見せてくれるか楽しみでなりませんね。響や貴音、雪歩回にも期待ですし、まだチケットの残っている回に行ける機会がある方はぜひ参加を検討してみてください。

(9/29追記 2ndシーズンについても書きました http://ch.nicovideo.jp/sidenp/blomaga/ar1652747