紫電Pの雑記帳

ニコニコのブロマガ閉鎖に伴い移転しました。主にアイマス関連の記事を書きます。2021年9月以前の記事はブロマガから移行したものです。

オペラセリア煌輝座 最高を塗り替えたドラマCDの感想・考察(ネタバレあり)








本日9/23、ミリオンのMTW11「オペラセリア・煌輝座」が正式な発売日を迎えましたね。
とはいえ四連休明けの発売日設定ということもあり、流通のルールの影響で早い地域では18日夜くらいから手に入った人もいるとか。私も誘惑に抗えず、誉れのないフラゲを19日に地元の店でやりました。でもって、毎日仕事で100km以上車を走らせていた世間での四連休に8周ほど聞いたので、さっそく感想・考察をしていきたいと思います。


いや、総評としてはすっげー良かったですね!








■概要


オペラセリア・煌輝座は、歌劇団だのサクラモリ大戦だの言われた新曲・Parade d'amourを引っさげ、7月中旬にゲーム内イベントが実施されました。この頃から既に私が狂っていたのはフォロワーならご存知と思います。なにせ、断片的な情報だけで5万字を超える創作をやった強火妄想勢の一角でしたから。

ドラマCDでは非常に多くの情報が開示され、時代、場所については特定に至りました。それは後述するとして、あらすじとしては以下の通りです。





貧乏な地方貴族の娘、アシュリー・ノリス(演・北沢志保は、父親が鉄道投資詐欺に騙されて屋敷も農地も奪われてしまい、家族も四散の憂き目に遭ってしまった。頼りない父親に代わり、アシュリーは証文を持つ成金貴族で大商人、ロバート・ヘリックの屋敷に侵入しようとするがことごとく失敗。そこでターゲットをロバートの息子、オスカー・タルボット(演・桜守歌織に切り替え、彼に近づくため性別を偽って王立士官学校に入学する。年度末には成績優秀者を招く宴がロバートの屋敷であるため、学校で成績優秀者になるか、お坊ちゃんというオスカーと親しくなれば証文を奪い取るチャンスが巡ってくると考えたからだ。かくしてアシュリーは、生徒会長でルームメイトのハーヴェイ・バーティ(演・田中琴葉、オスカーの従兄弟でライバルとなるアリエル・ハワード(演・徳川まつり)らとともに、使命を秘めて士官学校で勉学に励むこととなる――。


こんな感じですね。シナリオは最近、畏敬を込めて「アイマス界の小林靖子」という異名までつけられてしまったバンナム青木朋さん。共著も含めて、MTG、MTW、TCなどの多くのシナリオを担当しているほか、夜想令嬢の「昏き星、遠い月」の作詞、及び6thライブの夜想令嬢の演劇脚本も手掛けています。

夜想令嬢のほか、Escape、ラスト・アクトレス、World Changer、クルリウタなどまあ人死にがよく出る印象で、特にクルリウタで一層名を上げられたような気がします。一方でりるきゃんやHANABI団、TBTCでは空猫珈琲店やGmWなども手掛けているので、シリアスが目立つだけで幅広く書ける方なのだと思われます。……あれ? でもなんか茜ちゃんに厳しくない?







■登場人物総評









●アシュリー・ノリス(北沢志保)=冒頭15歳、最終的には17歳前後?



主人公らしい主人公でしたね。やや猪突気味ですが、行動力とハングリー精神の化身。確実に攻め。そしてParade d'amourの歌詞を体現するような存在でした。「世界は思うより広くて美しい」「鎖のように まとわりつく運命には負けない 自分の意思で変えてみせるさ 守るべきものは誰が決めることじゃない」という歌詞は彼女が男性陣三人へ送ったメッセージであり、また彼らからは形を変えて贈り返されたものでもありました。アシュリーを三人が惚れさせようとするのではなく、アシュリーが意図せず三人を惚れさせてしまうところが肝。求婚者の誰を選んでもよく、また誰が選ばれても非難が出ないような主人公になったのは、青木さんの筆の巧みさかと思われます。

多くの創作で予想されていたものとは違って、物語スタート時点で家族も離散寸前、屋敷も領地も奪われていることもあり、思った以上にダウナーかつ狂犬沢志保。特に煽り台詞や語録で打線が組めるほどでした。試しに組んだ。


1(遊) ムカつく(直球)
2(二) やっぱり貴方ムカつくわ
3(左) (アリエルは)子供より聞き分けがないんじゃないか
4(三) なんだ、オスカーの犬か
5(捕) やたらと人に噛みつかないように、首輪と鎖でも付けたらどうですか?
6(一) 田舎貴族にトップを取られるなんて、都の貴族も大したことないんだな
7(指) 伯爵家のお屋敷にしては随分と成金趣味だな
8(右) ああそうですか、貴方の好みとか知りませんけど
9(中) 吠えるなら校舎の外で吠えたらどうだ?
 (投) あの男がそうなのね。えっらそうに……


すごい。ハーヴェイくんの胃が壊れそう。

とはいえ、当初の復讐心が初めて知る学びの楽しさで揺らいでしまったり、学校になじんで段々性格が明るくなっていく辺りは、志保らしさもあって非常に好感の持てるものでした。そして時折にじみ出る年頃の女の子らしさもまた。ラストシーンも可愛らしく、そりゃイベントコミュではああいうファンレターが来るよな、と納得したものです。しかし独学で首席取れて、その後も並外れた努力ありきとはいえとうとう一年間トップを譲らなかったのはとんでもない資質ですね。

私はミリオンBCがぶっ刺さった勢なので近く別個に記事を上げますが、もう認めないといけないような気がします。昔は苦手でしたけど、良いですね志保。



●オスカー・タルボット(桜守歌織) =20歳前後?



事前の予想や創作では完全無欠のスパダリ、しかし貴公子の仮面の下には深い闇。父との関係は悪い……というものが多かったですが、当たらずしも遠からずといったところでしょうか。昼行灯を装う厭世型の秀才(顔がいい)というキャラ造形は、私は予想外でした。

王立士官学校(厳密には王立陸軍大学)に入学後、2~3年留年しているということが序盤に語られます。この辺りは後述しますが、陸軍大は実際にも早ければ2年前後で卒業できることを考えれば、実年齢は20歳を超えているかもしれませんね。それでもちやほやされて囲いが絶えないのは、実家の格や資金、また本人のビジュアルや物腰によるものなのでしょう。また、アシュリーの一喝で目が覚めてからすぐに卒業試験をクリアし、さらに近衛兵に任官されたところからして、学問も軍事も当然できる――けれど、卒業試験だけを意図的に落第していたのでしょう。勘もよく、内輪に対しての気配りもしっかりしているあたり、誰も寄せ付けない無敵のプリンスというのも持ち上げすぎではないのかな、と考えます。

ある意味ではアシュリーの正体に誰よりも先に認知していた人間ですが、傍観者気質であることもあり、心の闇を吐露する終盤まではアシュリーの認識も「おもしれー女」止まりで、恋愛感情は抱いてなかったようにも見えます。その代わり目が覚めてからは、密室でいきなりハグをしたり(手を握っただけかもしれませんが)、おそらく先導して求婚に走ったりと、アグレッシブな男に変貌します。ただ、それが終盤になってからであることや、この手の物語での王道要素――例えば「身分や立場を超えて対等に向き合ってくれる」といった属性を従弟が持っていったこともあり、乙女ゲーでいう攻略対象キャラとしての魅力は他の二人よりはやや落ちるようにも思えました。一方で、Parade d'amourも星宙のVoyageも、低音ガッツリ効かせた歌織さんの歌声ありきの構成なので、やはりメインキャラには違いがないのでしょう。





●アリエル・ハワード(徳川まつり) =16歳くらい?



アリエルくんかわいい……。良い……。

初聴時のメモもアリエルくんかわいいという文字列が大量に記されていました。お兄様べったりな生意気年下属性、というのは皆の予想通りだったでしょうが、物語を動かすライバル枠としての役割が非常に大きかったですね。剣術勝負は定番ではありますが、実際に妄想シナリオに組み込んだ身としてはガッツポーズものでした。しかもそこから性別バレにつなげるのも。泣き虫なところも含めて、アリエルくんは本当に本当に解釈一致でしたね。お兄様が持つと思われていた属性まで持っていったので、動きのある彼がメインヒロインに見えてしまうほどです。ハーヴェイとはまた違った王道キャラですね。

他方で、どうも一学年100人は下らないらしい学生たちの中で次席をキープし続ける秀才であったのは意外でした。彼もまた努力をして好成績を獲ることで親の許しを得ていたのでしょうが、だからこそ一個人として見てくれるアシュリーに次第に魅かれていったのでしょうね。章ごとの考察はアリエルくんの分析あってこそなので、後ほど詳しく彼の変化については書いていきます。

出身は実在の貴族、サフォーク伯ハワード家。20世紀まで長くイギリスの要職を担っています。本家筋のノーフォーク公ハワード家は、王妃を出したこともある名門中の名門です。


序盤では男としては明らかに未熟だった彼ですが、好敵手と恋を通じて一年前の男に脱皮し、お兄様にも譲らない対抗心を持てるようになっていくという意味では、男性陣では彼の成長物語が一番わかりやすかったかもしれません。心が夢女子になっちゃう。プロポーズシーンとか。

「君という人間は、この世界で唯一、ボクに負けを味あわせたんだぞ。その上ボクの求婚を断るなんて、"そんなひどいこと、キミはしないだろ?"」

この少年と男の絶妙な混ざり具合の言い回しで堕ちた人、リアルでもミリシタ世界でも山ほどいるんだろうなあ……。アリエルくんルート書きたいですね。かわいい。私は浅学なので諏訪彩花さんをアイマスでしか知らないのですが、少年声でも実績があったりするのでしょうか? 




●ハーヴェイ・バーティ(田中琴葉)=18~19歳くらい?



みんな大好き、魂が受けなコトハくん。そして最大公約数的コトハくんをさらに+αした存在でした。

コトハくんというのはTB03のウォーカーくん的なカルト的人気があったアレですね。Twitterで「"コトハくん"」で調べるとその経過……もとい濃い妄想が見られますが、的中だった女性免疫のないヘタレ優等生キャラ、アシュリー(シホ)を支援する唯一無二のルームメイト、個性的な二人に対して常識的な苦労人といった創作は多くされており、ハーヴェイくんもその予想通り、アシュリーを最大限支援・カバーする役割でした。しかも生徒会長。普段の予想では逆神な私ですが、ハーヴェイについては概ね的中でしたね。

しかし付属で実装された属性は「(アシュリーに惚れて)何を考えているんだ、彼は男だぞ!!」ではなく、まさかのラッキースケベ属性。しかも入学式前に裸ないし下着姿を見て即バレというもので、それと引き換えにアシュリーちゃんの証文奪還ガバガバRTAのサポーターを一年間終始務めることになってしまいました。

後述する医学を志すという考えは、彼のキャラクター性に厚みを与えつつ、物語をスムーズに進行させる意味でも重要な属性でしたね。

あとは「ヒィッ!!」だの「うぇぇ!?」だの、上げる声がいちいち可愛らしく、強火妄想勢のイメージが概ね予想通りだったこともあり、人気はさらに高まりそうな感があります。オペラセリアで創作やるなら、ハーヴェイが頑張らないと他三人がアレなので話がまとまらないでしょうし……。

ちなみにちょっとググるだけでもわかりますが、ノリス、タルボット、ハワード、バーティなど、四人の姓はいずれも当時の実在の(一部は現存の)貴族名です。全く同一のものとしては書いていないとみられますが、アリエルの実家は実在の超名門一族……の分家ですが代々要職を務めており、その嫡子は士官学校に来る身分ではないのは明らかです。
また、ハーヴェイ・バーティの元ネタは、オックスフォード近郊に領地と邸宅を構えていたアビンドン伯バーティ家と思われます。こちらはハーヴェイが語るほどではないですが軍人も輩出しており、近代の当主も一時的に軍人を務めたケースがみられます。また、史実でノリス男爵家を継承しているのもこのバーティ家。18~19世紀には財政難だったようなことも英語版wikiには書かれていますが、これは劇中のノリス男爵家の元ネタでしょうか。(※アビンドン伯バーティ家ではなく本家筋のリンジー伯バーティ家が元ネタの可能性もありますが、一時は公爵位を持ってたりするなどハワード家にも気後れしなさそうな一族なので、ちょっと格が高すぎるかなと思いました)


ハーヴェイくんが進学する大学は、当時医学部があって貴族が進むイングランドの大学となるとオックスフォードかケンブリッジの二択となるので、実家から通えるくらい近い(はずの)オックスフォードでしょうね。







●物語考察

 

■序幕「決意」


いきなり詐欺で詰むノリス家。

ミリオンでの設定では(おそらく)妻子を残して蒸発or失踪している北沢父ですが、こちらのノリス男爵も大概でした。アシュリーの台詞からして、騙されたのも一度や二度ではないのでしょう。家族四人の幸せな家庭を失っている志保にこんな役やらせたり「家族みんなで暮らせるわ、昔みたいに!」と歌わせたりするのか……という声もありましたが、本人は「アシュリーの行動は褒められた行動ではないけれど、家族が一番大事というのは私も同じ」と納得しているので、いいんじゃないですかね。
これを書いたのは青木さんじゃないですが、交通事故で最愛の弟を亡くしている如月千早に、妹と相棒を遺して交通事故死する姉というとんでもねーキャスティングしたドラマCDに比べれば幾分マシ。

さて、この序幕では物語の場所と年代がピンポイントに明示されます。ヨーロッパで鉄道投資が熱狂を迎えた地域と時代と言えば、爆発的に鉄路が拡大した1840年代の「鉄道狂時代」のイギリス。ノリス伯爵のようなカモに儲け話という名の詐欺が巡ってくるあたりからして、爛熟期からバブル崩壊前の1845年ごろでしょうか。登場人物の名前や実在の貴族の名が示された時点でイギリスということは予想されていましたが、士官学校の描写からしてもイギリスが舞台であることは動きません。

フランスが舞台だと思って必死に付け焼刃の研究を重ねていた創作クラスタ(私)は崩れ落ちましたが、それはまた別の話。


■一幕「秘密」


いきなり本丸のロバート・ヘリック邸に潜入しようとする貴族のお嬢様。すごい行動力だな! そしてガバガバだな! と思ったら一年がかりの計画で士官学校に入学したり、そのための猛勉強で首席入学したりと、アシュリーちゃんはすさまじいエネルギーの持ち主ですね。

さて、ここで王立士官学校という名称が出てきます。当時の王立士官学校ロンドンの王立陸軍士官学校と、ロンドンから西に約50km離れたサンドハーストにあった王立陸軍大学の二つです。オペラセリアの舞台は後者とみられます。二次創作ではロンドンに遊びに行くデートの話とか書かれたりするんでしょうか?

兵科の関係で、後にオスカーが進む近衛兵になるには後者の陸軍大学ルートが自然であること、またロンドンであればアシュリーが初めての首都暮らしについて触れそうなこと、また、ハーヴェイが「大学に"入り直す"」という言い回しを使ったことからも、サンドハースト王立陸軍大学が物語の舞台と比定できます。

ちなみに、いきなり留年してると噂されるオスカーですが、19世紀の欧州の士官学校は卒業まで最短で1年、普通だと2~3年はかかっているようです。残念ながらサンドハーストの記録は英語の不得手な私では浚いきれませんでしたが、アシュリーたちの半世紀後の後輩ということになる後の首相・ウィンストン・チャーチルは、この陸軍士官大学に18歳の時に3度目の挑戦で合格。入学後は経済的に苦しみながらも、優等生として約1年半で卒業に至っています。ちなみに国も世代も違いますが、かのナポレオンは士官学校卒業に1年かからなかったそうで。おかしなことやっとる……。

一幕は各キャラの顔見世の色が強く、またアシュリーがどのように潜入したかが示されるパートとなっています。ハーヴェイに裸(下着姿?)を見られたのは証文奪還RTAの一環、という指摘もみられましたが、舌打ちしたり失敗したら即詰むようなごり押しの交渉をやっている時点で計算外だったのではないでしょうか。ラッキースケベと引き換えに一方的に不平等条約を承服させられるハーヴェイくん、かわいいですね。でも、どうせまじまじ見れたわけでもないので、もうアンラッキースケベですね。全裸or下着姿で自分より背の高い女の子(初対面)に壁ドンされて迫られるって性癖が歪みそう。

そして、早々にアシュリーの正体に気付くオスカー。とはいえ不仲の父や実家が害を被ることに無頓着なので、おもしれー女として見守ることになります。一方でキャンキャン吠える子犬系男子のアリエルくん。かわいいね。


■二幕「日々」


冒頭からアリエルやオスカーへのアシュリーの煽り文句がキレッキレ。そして、大貴族であるアリエルが親を説得してようやく士官学校に入学したことが明かされます。おそらく、入学・在学中の好成績もその条件の一つだったのでしょう。

アリエルにとって学業の成績は、名門ハワード家の子息としてではなく、一個人のアリエルとして、学内やオスカーに認められるための手段でもあります。しかし、その成績ではにっくきアシュリーに負けっぱなし。そりゃ噛みつきたくもなります。でも「ごめんなさいお兄様」とか「お兄様はいじわるです……」とかはすごいかわいい。また、ここでお坊ちゃん然としているオスカーが何かを抱えていることが示唆されます。

二幕で既にケンカップルの素養が示されているアシュリーとアリエルですが、敏いお兄様はアシュリーがアリエル覚醒の鍵になることに気付いたり、ハーヴェイも共犯者であるのをわかってていじったりと楽しそうですね。この時はまだ傍観者でしかないので。


■三幕「友」


士官学校での勉強の楽しさに、当初の目的を忘れてしまいそうになるほど学問にのめり込むアシュリー。王立士官学校は軍事以外の科目も幅広く履修できるため、持ち前のハングリー精神と成績優秀者になってロバート・ヘリックの屋敷に堂々と入る目標があるアシュリーにとっては、相乗効果もあったのでしょう。ここから語り口も格段に柔らかくなります。

劇中ではこの頃はもう入学から数カ月から半年ほど経過しているはずですが、対人関係で大きな変化が見られます。剣術の自主練習を巡ってアリエルと会話するアシュリーですが、二人とも言葉の使い方がくだけており(まだ棘はありますが)、アリエルともライバルとして仲が深まっていることがわかります。おそらく、小テストやちょっとした学内のイベントでも勝負を何度かしたのでしょう。ここでアリエルは歌詞にもある「君のことを、少し勘違いしていたみたいだ」という台詞を発するのですが、自主練習を知っただけでその言葉に至ったのではないことは、二幕までの彼らの会話との違いからも察することはできます。オスカーの見込んだ通り、この台詞に至る前の時点でもう二人は競い合い高め合うライバルだったんですね。しかしアリエルくん、よく相手に指差ししてますけど英国紳士としてそれはどうなんでしょう?

ここで「努力」について、アシュリーがアリエルに大きな刺激を与えます。学問や成績はオスカーや一族、あるいは周囲に認めさせるための成果・手段でしかなかったであろうアリエルと違って、アシュリーは学ぶことそのものが楽しい。それにアリエルは衝撃を受けたのが見てとれます。

そして、もうこの時点でアリエルは、お兄様に付きまとうアシュリーの排除が目的ではなく、アシュリーと競い合うことそのものが楽しくなっていることも隠せなくなっています。きっと途中からはウキウキで、アシュリーに日々勝負を仕掛けていたんでしょうね。そしてげんなりしつつも、優秀なアリエルと切磋琢磨すること自体には前向きなアシュリー。いいですよねこういう関係性。


一方で、試験の場で剣術勝負をすることになった二人に関連して、医学を志しつつ――けれど軍人一族ゆえに諦めムードのハーヴェイの身の上が語られます。ここでその原初の動機が「病弱な母を治療したい」であることが明らかになりますが、それに対して普段何かと辛辣なアシュリーの言葉が「素敵な夢ね」。後日、ハーヴェイが医者になるため大学に入り直すと告げた時の「良かった……」という万感の言い方からしても、アシュリーが「母の病を治したい(orたかった)」というハーヴェイの想いにかなり肩入れしていることがわかります。ではそれはなぜか。

おそらく、アシュリーの母は病気で故人となっているから、ではないでしょうか。序幕以降一切存在が示されず、弟妹も母親ではなくアシュリーに泣きついています。世間知らずなノリス男爵が制御不能なのも、妻を亡くしているからと考えられます。また、同じく母を病で亡くしたオスカーを強い口調で諭したことも、傍証の一つとなります。

ともあれそんなこともあり、アシュリーは「自分の未来は自分で決める」ことを強く訴えます。タジタジのハーヴェイくんかわいい。一方で、心の揺らぎを認めたくないがためにオスカーを頼らず、半ば意地になって独りでの戦いを続けたアシュリーは、彼女以外には無敗だったらしいアリエルを剣でも撃破します。すごいなアシュリー、どうやったんだ?

周囲の学生の反応からしても、アリエルが剣で敗れたというのは大きなニュースであることがわかります。そして何より、アリエル自身が完敗を潔く認め、アシュリーを讃えたことからして、彼女の剣技は本物だったのでしょう。体力的に劣るのはアシュリー自身も認めているので、おそらく皆が創作でやったように、初見殺しに近い戦術だったのでは?とも思えますが。

しかし勝利も束の間、ストレスと疲労でダウンするアシュリー。これハーヴェイくんお姫様抱っこしてますよね? しましたよね? そしてもうアシュリーとはライバルというより強敵と書いて「とも」と呼ぶような関係になっていたアリエルは、以前より幼さの抜けた声で自問自答します。

医務室で「体が限界」と告げられるアシュリーですが、反応からしても自覚はあったということなんでしょう。この手の女性が男装して学校に潜入する物語では、女性であることの偽装に苦心する描写が定番ではありますが、尺を削りに削ってもまだ足りないオペラセリアでは、ハーヴェイの補佐があっても相当の負荷がアシュリーにかかっていることをこうした形で端的に示したのは良かったかと思います。

そしてアリエルへの性別バレ。ここからは王道オブ王道ですね。そしてここで、自身が弱っていたこともあり、捨て鉢になってしまうアシュリー。ですがこれは、男装の限界を悟ったということも否定できませんが、強敵(とも)のアリエルを深く傷つけたという自責の念があの諦観につながったのではないでしょうか。アリエルとのライバルを超えた関係をアシュリーも心地よくなっていただけに、傷つけた彼によって全てが終わることで贖罪とするのもやむを得ない……と考えたのではないかと、私は想像します。

そしてそんな彼女を諭すハーヴェイ。彼の役割の真骨頂ですね。彼女が人生観を変えたハーヴェイが、今度はアシュリーを救う。パートナーとして強固な結びつきのある二人ですが、これを言えるのがハーヴェイくんのいいところであり、またミリシタ世界での観客が彼に酔いしれた理由なのでしょう。私もこんなハーヴェイくんが見たかったので、拍手喝采です。

ボロ泣きアリエルくんかわいいですね。彼、きっとプロポーズが成功しても失敗しても泣いちゃうでしょうね。かわいい。そして雨降って地固まる。ノベルゲーや乙女ゲーなら、ここまでが共通ルートな感があります。


■四幕「誓い」


一年間首席をキープし、ついにパーティー参加者として因縁の屋敷に足を踏み入れたアシュリー。でも屋敷を「成金趣味」と指摘する辛口評価は健在。そしてハーヴェイくんは上の学年の成績優秀者として呼ばれたのでしょうが、アシュリーが何をする気かわかりきっているので釘を刺してきますね。まあもちろん刺さらないんですが。

ここで「成金趣味」に対して、初期のように「お兄様を愚弄するのか!!」と突っ込んでくることもなく、あくまでアシュリーがロバート・ヘリックを批評しているのだと理解しているアリエルが登場します。物語中わかりやすい形で成長を遂げる彼ですが、あるいは成長だけではなく、この後の発言からしてもアシュリーの動機を遅ればせながらつかんでいたのかもしれません。喋り方もちょっと大人っぽくなってますね。

そして単身、書斎に潜入して証文を漁るアシュリー。あっこれゲームならバッドエンドフラグだと思ったら、すべてを知っていたオスカーはあっさり証文を手渡します。そして父親の金に頓着していないだけでなく、心の闇が明かされるオスカー。「カネなんて必要ないんだよ」と言いながら、何がしかの書類を握り潰す姿は、アシュリーにとっても意外だったのでしょう。しかし、母を失ったことや非道な父を憎んで内に閉じこもる姿がいかに無意味であるかを、アシュリーは厳しく指摘します。この物語は、自分の意思で自分の道を決めることの重要性を訴えるもの。傍観者を決め込んでいたオスカーも最後の最後で舞台に引きずり出され、演者としてスポットライトを浴びて自身と向き合うことになったのでした。

そして母の言葉を思い出し、愛に目覚めるオスカー。そしていきなりハグ。そりゃアシュリーも可愛らしく狼狽もしますよね。そしてこの直後、様子を窺っていた二人が突入したであろうからこそ、他二人を制してアシュリーと二人きりになったオスカーの行動が「抜け駆け」と評されるわけで。



■星宙のVoyage


好き……。早くライブで聴かせて……。リリイベ本当にやれるなら積み増すから……。

印象的なのは、Cメロ前の台詞パート。この出逢いを運命というアリエルに対して、アシュリーは「運命なんかじゃないわ。これは、きっと……」と答えます。おそらく、劇のテーマ同様、自分の意思で選んだ結果だと言いたいのでしょう。その後の「愛してる」四連呼に至っては、ライブでやったら悲鳴がすごそうだしティアラ生えそう。しかし香里有佐さん、オペラセリアで歌織さんの新境地を開拓しましたね。



■終幕「告白」


屋敷と領地を取り戻し、自主退学して(地元の?)学校に通いなおすことになったアシュリー。そんなアシュリーに対して求婚しようとバラの花をもって集まった三人ですが、オスカーが「うっかり」趣旨を伝えていなかったせいで騒動になるわけですが……お前絶対に事前通告なしの方が面白いと思って黙ってたでしょ。

そして、お兄様相手にも恋の対抗意識を燃やせるようになったアリエル。大人になったね。でも男装解いてるアシュリーの笑顔への耐性はゼロなんですね、かわいい。なんだかんだで、足繁くアシュリーの学校や実家に遊びに来たりするんでしょうね、彼は。

そして医学を志して大学に入り直したハーヴェイ。ただ軍と完全に人生を切り離すことはできないでしょうから、アシュリーに選ばれても選ばれなくても、10年ほど後には試練が訪れるでしょう。ナイチンゲールでおなじみの、クリミア戦争がありますし。


そして求婚されるアシュリーですが。求婚台詞も強烈ですし、改めて、誰を選んでもおかしくないシナリオ構成にしたのは素晴らしいですね。ハーヴェイくんの台詞は同じようなものを書いてたので、とってもご満悦でした。誰を選んでもいいし続きが気になるという意味では、二次創作もめちゃくちゃ捗ります。捗れ。みんな書いて描いて。











私がコトシホ、公式で言えばハーヴェイ×アシュリーを猛烈に推していたのは言うまでもありませんが、一方でこのドラマCDを聴いた結果、聴く回数を重ねるたびにアリエルくん株が猛烈に上がってきていて決めかねているところもあります。いいですよね、どっちも……。




1万字を超えてしまったのでそろそろ締めますが、期待を裏切らず、予想をさせながらもそれを上回るという意味でも、最高を塗り替えていくミリオンらしい素晴らしいドラマCDでした。やはり劇中劇は、ミリオンが他4ブランドを圧倒できる強みの一つですね。なんでTDやりましょう。ライブでもまたミュージカルやりましょう。聞いてるかJUNGO、勝股P。あっそうだJOVオリメンも頼むな。



また、ミリオンBCでは志保と琴葉に演技フラグが立っており、既に演技の魅力を知った歌織さんもいます。まつりはまだ目立つ出番がありませんが、ここは稲山覚也先生、いずれ一回くらい割いてオペラセリア・煌輝座を描いてみませんか? ね? ね??


今後はというと、ひとまずは創作意欲を復活させてくれたオペラセリアへの感謝も込めて、月内めどに公式設定で短編を一つ書いてみようかなと思います。アリエルくん主役で。あと誰かノウハウのある人が、オペラセリア合同誌を立ち上げてくれないもんですかね……。いくらでも出資しますよ。ほんと。

同様にハマった夜想令嬢をリアルタイムで浴びることができなかった私にとっては、オペラセリアには本当に楽しい経験をさせてもらっています。感謝してもしきれませんね。MTWの目玉ユニットであるようですし、8thライブなど今後のライブイベントでの披露が楽しみです。